人を引き寄せる人。
今、水戸にいる。
広すぎるロータリーにひっそりと忘れられずに佇む黄門様をちゃんと見てから、サザコーヒーもちゃんと飲む。
水戸グルメが納豆以外まったく浮かばなかったのだけど、入ったとんかつ屋さんに納豆がかかってるメニューがあったのでそれにした。納豆は何にでも合うのだと、信じてほしい。
あたしはトリプルワークをしているため、毎月ちゃんと自分で調節しないと、平気で休みが消滅するのだけど、明日はじつに15日ぶりの休日なので、仕事終わりに水戸にいるソウルメイトに会いにきたというわけ。
フットワークが文鎮ほど重く、人がたくさんいるところには気合いを入れないと楽しめず、三度の飯よりひとりが好きなので、誰かに会い旅に行くのはそれなりに、思い切ったことである。
彼女はそれほどに吸引力がある。
大学の同級生なのだが、あたしは20代後半に二度目の大学生になったので、実質10歳ほど年下の彼女なのだが、これが一度会うとクセなる人なので、卒業して1年経つ今でも定期的に引き寄せられる。
彼女を待っている今、なぜだと考える。
彼女は声が大きい。
大きな声で発言をし、大きく笑い、大きく驚く。ちゃんとお顔や体もそれに従う。
何度、人差し指を口の前に立てて、静かに!とジェスチャーしたことか。それでも彼女は、声のボリュームを1.5くらい下げてちゃんと自分を表現する。
そんなにあたしの話は面白いか
それはよっぽど腹が立ったのか
それはそんなに美味しいのか
あたしのことでも自分のこと以上に反応してくれるから、一緒にいると病みつきになる。ご飯も美味く感じる。
また、彼女はどこにでも来る。
彼女も日々とても忙しい人なのだが、自分が会いたいと思うと、どんなに予定が詰まっていても、県をまたいでいそいそとやってくる。電話やLINEでは済まされない。ちゃんとお土産を持って、変わらない声の大きさでやって来る。あたしが実家に帰省している時にも、わざわざ飛行機に乗ってやって来て、うちの家族はまんまと彼女の虜になってしまったのだから余程である。
そして、彼女はやらかす。
いわゆる、おっちょこちょい。自覚するそれである。彼女は演劇における演出助手という多忙極まりない役割を引き受けていているのだが、あたしだったらとっくに撃沈して引きこもってしまいそうな失敗を
なんで私はいつもこうなんだ!!!!
などとちゃんと持ち前の大きな声と動きで落ち込んで、しがみつく。
逃げたいことなんていくつもあっただろうに。誰よりも、その場にいようとして、おっちょこちょいな自分でチャンスの場に繰り出している。
かっこいい。
クールに感情を抑え、周りが見れて、スマートに効率よくこなすことのできる人なんかより、ずっとかっこいい。
情報がいくらでも手に入り、わざわざ自分で体験しなくてもなんとなく予想できる今。
自分の足で、自分の感情で、自分の失敗や苦味を舐め尽くしている彼女を、あたしはかっこいいと思う。
だから会いに来た。
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