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「子育て不安/子育てに対するネガティブな感情」(第5章関連)(2023.10.4)

 今回のテーマは、子育てに対する不安感やネガティブな感情です。出産費用や教育費に対する経済的な不安、育児と仕事を両立していく肉体的な負担、1人で子育てをする精神的な負担など、さまざまな子育て負担を挙げられると思います。こういった負担と、子育てに対してネガティブな意識や感情との関係について話し合いを行いました。

子育ての経済的な負担

等価世帯所得が低いほど、子育て費用に対する不安が大きい
ただし、所得が高くても子育て費用に対する不安は残っている。
「政策モニター 若者の意見」
• 所得制限のかかる1,000万円前後は、生活が苦しい。(30歳/ 会社員)

・出産費用と教育費の上昇
・出産費用
全国平均:45.2万円 年平均1%程度上昇 東京:55.3万円 

・教育費
幼稚園~高校における学習費総額(学校外教育費を含む)
すべて公立:574万円 すべて私立:1838万円

高等教育機関への進学率の上昇
令和3年時点、83.8% → 教育費の増加

子育ての精神的な負担

・子育て期の親の精神的健康は損なわれやすい→支援の重要性
・認知的失敗が高いほど・疲労感が高いほど・神経症傾向が高いほど精神的健康が低い
※認知的失敗→日常生活における様々な失敗体験

■認知的失敗に関して
・要因
母親の育児や家事の時間は父親より長い
+育児や家事の多くは2重課題(何かをしながら何かをするといった2つのことを同時に行う課題のこと)
→常に注意力が制限される(+出産後は一時的に認知能力が低下しやすい)
→認知的失敗をしやすい
・対策
メモや備忘録などによる記憶補助、行動や住環境の調整(例、必需品等の保管場所を決めて管理→外出時の準備時間短縮→忘れ物防止)

■疲労感に関して
・疲労感が高い→ポジティブ感情が低く、ネガティブ感情が高い
・家族や友人によるソーシャルサポートや育児・家事サービスの利用によって疲労を軽減する必要あり

■神経症傾向に関して
・神経症傾向が高い→情緒不安定、ストレスに対して脆弱→不安や抑うつになりやすい
・性格は容易に変容できるものではない
→神経症傾向の程度を予め把握して、対策を立てる必要あり

■ソーシャルサポートについて
手段的サポートよりも情緒的サポートのほうが効果が大きい
手段的サポート→育児や家事を手伝ってくれるなど
情緒的サポート→相談に乗ってくれる、苦労をねぎらってくれるなど
・最も重要なサポート源は夫であるが、現在の日本では十分なサポートを得られていない事が多い
→父親の育児休業等やフレックス制度、在宅勤務制度といった育児支援制度を整えるべき
+育児・家事サービスの利用
→育児支援サービスを積極的に活用するように広く周知すること・共働きの家庭だけでなく、専業主婦の家庭にも育児支援サービスを推奨するべき

子育て負担による虐待

虐待アンケート調査
「虐待あり」12.5%「虐待傾向」39.5%
母親であることに否定的であるほど有意に「虐待あり」「虐待傾向」が高かった。
「子育てを負担に感じる」とした人で上記二つに該当する人は11人中6人(54.6%)で有意に高かった。
夫の特性
母親の7割が夫にもっと家事や育児を協力してほしいとして、その気持ちが強いほどに有意に虐待の傾向があった。
「夫による子供への粗暴な扱い」がよくある、稀にある母親も虐待傾向にある割合も高い。→子育てが母親に偏っているからと言って、虐待の原因が母親のみにあるわけではない

母親による児童虐待を減らすためにはストレスの多い環境にいる母親が孤立無援にならないための支援ネットワークの強化が必要

職場でのネガティブ意識

⭐️育休を取得する際の「代替要員」が課題
 →(特に男性における)育休のとりずらさ、周囲のネガティブイメージにつながっている

背景)
・「厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」にて育休取得者の代替方法を見ると、全産業で約8割を占めて圧倒的に多いのは「代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応した(以下、同僚が対応)」(79.9%)である」 (ニッセイ基礎研究所より)

・「育休取得率が比較的高い「情報通信業」では、前述の通り、「同僚が対応」がほぼ100%を占めるが、これは正規雇用者が多く7、雇用が安定的に確保できているために、現在のところ、代替要員の補充の必要性が高くないという状況も考えられる。同様に、育休取得率が首位の「金融業,保険業」では「人事異動で対応」(30.0%、全体より+15.4%pt)が多いが、同様に正規雇用者が多く8、社内全体で見れば人手に比較的余裕があるという可能性がある。一方、育休取得率が低い「宿泊業,飲食サービス業」では「代替要員を雇用」(20.6%、同+11.0%pt)が多いが、前述の通り、非正規雇用者が多く、雇用が安定的に確保できていないために、新たに雇う必要があるとも考えられる。」(ニッセイ基礎研究所より)

・「また、事業所規模別には、30人以上の事業所では、いずれも男性の育休取得率は前年より上昇しており、大規模であるほど取得率は高く、上昇幅も大きくなっていた。一方、30人未満の小規模事業所の男性の育休取得率は1割程度で低く、しかも、2022年の取得率は僅かながら低下していた。なお、育休取得者の代替方法を見ると、大規模事業所や正規雇用者の多い産業では同僚や人事異動による対応が多く、日頃から雇用が安定的に確保されており、人手に余力がある一方、小規模事業所や非正規雇用者の多い産業では人手不足も育休取得の障壁となっている様子がうかがえた。」(ニッセイ基礎研究所より)

対策)
「育休取得者や短時間勤務を活用する働き手の業務について、外部の代替要員を雇用したり同僚の負担軽減を行ったりする場合、助成措置を拡充する案がある。パートやアルバイトの採用が念頭にある。」(日経新聞より)

親の援助による負担

(奈良県の調査より)
・「ひんぱんに期待できる」と「日常的に期待できる」を合わせた期待できる割合をみると、妻の母親からの手助けが24.2%で最も高く、次いでパートナー(夫)の母親からの手助けが17.2%、妻の父親からの手助けが14.8%となっている。

・すべてのパターンで「ほとんど期待できない」「時々期待できる」が半数を超える

⭐️親の援助有る無しで、母親の心理的負担・不安感はどう変わるか
・思ったより変わらない
・手助け無しのほうが、5%ほど負担を感じる人が多い
・「親の口出しがストレス」という記事もたくさんある

「同居に限らず、子育てと仕事の両立に、親の存在がなくてはならないものになっている」

・フルタイムで働く共働き子育て世帯は、「近居」の場合、7割が親による子育てサポートを受けている(長子が未就学児の場合は8割)

・親の住まいとの距離が1時間以上の「遠居」でも、子育てのサポートは2割

・サポートを受けている子世帯がお願いするのは「妻の親」の割合が高い。
・「夫の親」と近居し日常的にサポートを受けている子世帯でも、重ねて「妻の親」からもサポートを受ける割合が7割。
・その中には1時間以上かかる「遠居」の親によるサポートも見られた

コロナ禍の子育て負担・ストレス

新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛状況下における保護者の子どもの発達に対する不安と、それらに関連する要因

子供の発達に関する不安はコロナ禍で増大
・子供の社会性に対する不安
・子供の学習能力に関する不安

コロナ禍において母親の心理的苦痛に関連する要因
・経済状況の悪化
・ゆっくり過ごす時間の減少
・子育て困難感の増加
・夫のDV的言動の増加
・夫の在宅時間の増加
・不公平感の増加

外出自粛の結果
・子供と接する時間の増加
・夫が在宅になったこと
・幼稚園や保育園が使えないこと
・女性が自分に使える時間が減少
・反対に男性はは自分に使える時間は増えた人が多い

→幼稚園や保育園に行かないことで子供の社会性や学習能力に不安感が増した
→ソーシャルサポートの受援機会活用姿勢である「受援力」が高いと子育ての心理的苦痛が低いという結果が出た
→パートナーが家にいても家事育児のスキルが低く補助的な役割にしかならなず、、むしろ家にいる分の負担が大きくなった


参考文献

・厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果 等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977521.pdf

・内閣官房「こども・子育ての現状と 若者・子育て当事者の声・意識」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/dai1/siryou5.pdf

・文部科学省報道発表 https://www.mext.go.jp/content/20221220-mxt_chousa01-000026656_1a.pdf

・中村強士(2015)「保育所保護者における貧困と 子育て・家庭生活の悩み・不安・困難~名古屋市保育所保護者への生活実態調査から~ 」https://nfu.repo.nii.ac.jp/records/2303

・岩佐一(他)(2020)「子育て期の女性における精神的健康の関連要因」『厚生の指標』67(6), p.8-14 https://www.hws-kyokai.or.jp/images/ronbun/all/202006-02.pdf

・文部科学省委託調査 令和2年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究~家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査~」https://www.mext.go.jp/content/20210301-mex_chisui02-000098302_1.pdf

・清水寛之(2018)「日常生活場面における認知的失敗行動の自己評価と時間的展望-認知的失敗質問紙(CFQ)とジンバルドー時間的展望尺度(ZTPI)の関係―」『神戸学院大学心理学研究』1(1), p.33-41 https://www.psy.kobegakuin.ac.jp/~kgjpsy/1_1/pdf/05_201812.pdf

・佐々木那津(2023)「子育てをしながら働く女性のストレスとメンタルヘルス」『産業精神保健』31(1), p.21-24
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/31/1/31_21/_pdf/-char/ja

・三徳和子、伊藤亜古、森隆也、木村愛、鷲見芳江、大西美紀(2002)「子供虐待に関する母親の意識調査」, J.Natl. Inst. Public Health 51(1), p77-83
https://www.niph.go.jp/journal/data/51-1/200251010014.pdf

・周燕飛(2019)「母親による児童虐待の発生要因に関する実証分析」, 医療と社会 Vol.29 No1, p13
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iken/advpub/0/advpub_2019.001/_pdf

・日本商工会議所「中小企業における仕事と育児の両立について」2022年12月9日
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_kankei_yushikisha/pdf/keirou_siryou1.pdf

・ニッセイ基礎研究所「男性の育休取得の現状ー『産後パパ育休』の2022年は17.13%、今後の課題は代替要員の確保や質の向上」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75926?pno=3&site=nli

・日本経済新聞「男性育休に代替要員の壁 職場8割『補充できず』」2023年8月12日
・日本経済新聞「育休の代替要員確保 助成」2023年7月27日朝刊

・朝日新聞with news「子育て〝詰んだ〟を救うのは誰? 「親を頼れない」ときにどうするか」
https://withnews.jp/article/f0230515000qq000000000000000W0bx10701qq000025745A

・文部科学省「令和2年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究 ~家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査~」」
https://www.mext.go.jp/content/20210301-mex_chisui02-000098302_1.pdf

・荻 田 純 久、西 本 実 苗、松 井 典 子、浜 崎 由 紀、土 屋 寿 子著(2021)『緊急事態宣言中の母親のストレス状態と子育て支援に関する研究』http://purl.org/coar/resource_type/c_6501

・小湊真衣著『新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛状況下における保護者の子育て不安−非常事態時における子育て支援のあり方の検討−』https://tust.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=737&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

・木村美也子、井出一茂、尾島俊之著(2022)『幼い子をもつ母親のコロナ禍の心理的苦痛とその関連要因:この育てにくさ、発達不安、ソーシャルサポートおよび受援力に焦点をあて』https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/advpub/0/advpub_21-058/_pdf/-char/ja

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