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『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

監視社会が強化されていくなか、報道の自由が失われていく過程を、朝日新聞の記者だった著者自らの体験を踏まえて書かれている点が、この本の一番の読みどころでした。日本においても数十年にわたって、技術や法制度などを通して監視社会が強化され、プライバシーが蝕まれてきたことを知ることになり、自分のこれまでの関心の低さを反省しました。


プライバシーへの関心の低さを反省

 前回の投稿でスノーデンの本を読もうと思い立ったきっかけを記させていただきましたが、本書との出会いは、その関連本を探しているなかで、選んだ一冊という稀薄なものではありましたが、日本で監視社会が強化されていく過程を知るという点で、貴重な一冊となりました。
 私が検閲などのことを強く意識するようになったのは、一昨年くらいからでした。その前年くらいから動画を通して感染症などの話をよく見聞するようになって、動画がバンされたとか、消されたといったことを聞いても、最初はそんなことがあるのかなといぶかしんでいましたが、そのうちに自分のアクセスしたサイトがなくなっていたりするのを経験し、そういうことが確かに行われていることを体験的に知るようになりました。
 昨年、自分でYouTube動画をアップするようになって、内容によってアクセス数に増減がでることを知ったことでも、AIによって何らかの制御が働いていて、見えない検閲であり監視の存在を感じるようになりました。
 そんなことが検閲や監視といったことを意識しだすきっかけで、それまでニュースとかで、監視カメラを通して犯人が特定されたといった話を聞いても、すごいなあと思ったりしたくらいで、自分がそれによって監視されているといった意識はほとんどありませんでした。
 マンションに防犯カメラをいれるといった理事会の話し合いでも、そんなものが必要なほど犯罪があるのかといった疑問は浮かびましたが、自分がとられることに対する警戒意識はほとんどなかったように記憶しています。
 それが前回ご紹介した本やこの本を通して、まさに「私」が監視対象であることを強く意識するようになりました。そういう点で、スノーデン関連の本は、私がプライバシーに目覚めるきっかけをつくってくれたのです。それはまさにスノーデンが意図したことではないかと思います。
 そんなことと並行して、憲法改悪やWHOで進んでいる国際保健規則の改悪がにわかに俎上に乗り、私たちへの監視・管理が強まり、自由が失われていくことを問題と認識するようになったのですが、私にとってはふってわいたような監視社会という現実が、長い年月をかけて積みあがってできてきていることを、今回ご紹介する小笠原みどりさんの本などによって知ることになりました。
 朝日新聞の記者としてかけだしだったころの小笠原さんは、1990年代初頭、国民監視に使える「住民基本台帳法改正案」というものからこの問題にかかわるようになられたようです。当時、「国民総背番号制」といった言葉が話題になっていたことは記憶にありますが、だからなんなのといったくらいの認識で、社命もあってこの問題を追うようになられた小笠原さんも、この法律に懸念を示す人たちの問題意識が当初はわからなかったそうです。
 そういう意味で、このプライバシーという問題は、直接見ることのできない感覚的なものであり、その問題の大切さに気づくのに、なんらかの個人的体験などが必要なのかもしれません。
 住基ネットなどは、行政の効率化や利便性の向上などのためにつくられたもので、監視を強化するといった意図はほとんどなかったと思いますし、インターネットがでてくる前の技術では国民全体の監視といったことも難しかったと思います。それがインターネットがでてきて、そのあとの一連のテロなどを含む大きな事件と、それに対応してできてきた法制度、例えば2013年の特定秘密保護法、2016年の盗聴(通信傍受)法改定、2017年のテロ等準備罪などが、日本の監視システムを法的に追認していくものとなったそうです。
 今、管理・監視体制を一挙に推し進めるために行われようとしている憲法改悪は、まさに長い年月をかけて行われてきた監視強化への流れの本丸です。最後の詰めにはいったようなところで問題に気づいても、外堀はすでにほぼ埋まっていて、あとは城を落とすだけとなっているような状況で、きわめて不利な状況にありながら、気づいたからには、自分にでききることをしなければならないといった思いもあります。このnoteのブログをスノーデン関連の書籍で始めたことも、そんな私の危機意識の現れで、読者の方にも、是非一緒に考えていただきたいと思いながら執筆しています。

主流メディアがプロパガンダ機関になりさがったわけ

 まず、私自身の反省を述べさせていただきましたが、小笠原さんも本書のなかで、朝日新聞という大手新聞社が、この監視社会ができつつあるなかで、どういうふうに委縮していったかを綴られています。具体的な事例は本書にあたっていただくとして、そのまとめとなるような一節を取り上げます。

私が記者だった十余年の間に、日本のメディアは大小の権力に挑むという点で、確実に縮こまっていった。(中略)対テロ戦争を一つの契機に、記者一人ひとりの価値基準の喪失と自己検閲とが一気に進んだ。それは目立たないように権力ににじり寄り、カメレオンのように論調を変える編集幹部が先導した。

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

 メディア側の忖度や自己検閲が働いたといった内部的な要因の背後には、情報を握っている政府などの対応があったわけです。例えば先に挙げた特定秘密保護法によって国にとっては都合の悪い文書を秘密指定すれば、事実を合法的に闇のなかに隠しておくことができるようになったわけで、次のようなくだりがあります。

民主主義の仕組みが国家の秘密によって次第に侵されています。国家秘密は特権的な立場で「これは国家安全保障に関することだから」とか「反テロ活動だから」とか「機密なのであなたにはお知らせできません」とか、議論にみんなが参加することを阻んでいる。

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

 その結果が報道の内容に顕著に表れるようになったわけで、2010年ころは11位だった世界報道の自由度ランキングが、2016年には72位まで転落したそうです。
 そうやってメディアが特定の話題を避けたり、論点をずらしたりしていくうちに、主流のメディアからしか情報をえていない、かつての私のような人は、大事なことを知らされずに選挙などの投票行為を行っているわけで、正しい判断ができるわけもないのです。
 主流メディアが嘘ばかりを垂れ流していると、私が気づいたのはほんの2年ほど前のことで、それまでは、両親と同じように、NHKのニュースさえ押さえておけば、世の中の動きについていけると思ってNHKラジオを習慣的に聞いていたのです。それが感染症社会にはいって、ネットでいろいろ調べていくなか、NHKで言われていることや言わないことを、自分が調べて正しいと思える情報と照らし合わせていくことで、NHKは聞くに値しないプロパガンダばかりを発信していると考えるようになりました。
 インターネットで情報が得られるようになって、まず紙の新聞をやめ、壊れかかっていたテレビを10年ほど前に捨てて以来、テレビなし生活を続けていて、主流メディアでどのような報道がされているかの認識もあまりないのですが、朝日新聞で起きていたことがすべての主流メディアで起きていたのだなと、この本を読んで感じました。
 そんななか、なんとこのメディアの委縮について書いたいるさなかに、「テレビ輝け!市民ネットワーク」という市民団体が、田中優子氏、前川喜平氏、梓澤和幸氏らを中心としてでき、記者会見をしたことを知りました。テレビ局などの株式を保有して、その放送内容などについて株主としてモノ申していくそうで、今後の動向を注視していきたいと思っています。

日本がどうやって属国であり続けているか

 この本でもう一つ興味深く読ませていただいた点は、監視社会ができる過程における外国、特にアメリカの関与の仕方です。もちろん、テロがアメリカで起こったこともありますし、監視に使われるインターネットなどはそもそもアメリカで開発された技術といった、周知の関係性もありますが、人目に触れずに、かつ当事者ですら気づかないような形で、内政干渉が行われていたことをスノーデンは明かしています。例えば特定秘密保護法はアメリカがデザインしたものだとして、そこにおけるアメリカ国家安全保障局(NSA)の役割についての次のような一節が続きます。

この法律家グループは外務取締役会と呼ばれる部署と一緒に、どの国が法的にどこまでNSAに協力して情報収集することが可能か、それ以上の諜報活動を求めれば国内法や憲法に違反する、または人権侵害になるといったことを把握している。そして、ではどうすれば人権上の制約を回避できるか、どうすればその国が自国民をスパイすることを妨げている法の守りを解くことができるか、もっと情報を機密化して公衆の目から隠すことができるかを検討しているのです。

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

こういった外国の制度を知り尽くしたアメリカ政府の専門家集団がいて、それによって切り崩されていっているだけでなく、国内にも、そういう流れを歓迎する勢力があることも次のように指摘されています。

自民党政権は以前からスパイ防止法ないし国家秘密法を制定したかったが長く世論の反対にあって制定できずにきた。そして日米関係がいかに隷属的な実態であろうと、そこから利益を得る日本の政治家や官僚はいるし、彼ら彼女らは米国の後押しを得て、今度こそ秘密法制定の千載一隅のチャンスと、自らの意志で受け身以上の役割を果たしたことだろう。スノーデンはむしろこの関係者の利益こそが監視システムを拡大方向へ突き動かしている、と指摘する。

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

この最後の部分にある関係者の利益という点では、政治家といった大きな政策決定機関のなかだけでなく、企業なども含めた小さな利害関係の調整でも働いていて、その人たちはそれをすることが結果として何をもたらすかを考えることもなく、監視社会強化にいつのまにか加担していることになると感じたのは、次のような一節からでした。

「NSAは出来る限りすべての情報を集めたい。だからすべての通信ケーブルの上陸地点に窒息ポイントを設けたい。したがって多くの場合、最大手の通信会社が最も密接に政府に協力することになります。それがその社が最大手に成長した理由でもあり、法的な規制やトラブルを回避して許認可を得る手段もあるわけです。企業の側にしてみれば、通信回線を拡大し、陸揚げ局を設置して事業を広げたい。だから政府に協力しなければ収益拡大のチャンスを失うことになる。政府側もそれを熟知していて、この話がまとまらなければライバル企業に話を持ち込むことをちらずかせ、てこ入れをするわけです。政府としても自分たちを情報にアクセスさせてくれるならば、事業拡大のお手伝いをしたい、と。」
こうした政府と企業の協力関係はけっして表に出さないことを、スノーデンは再び強調した。企業は政府に脅されているとは感じないし、強面(こわもて)の悪役はここにも登場しない。
「監視設備が拡大していく過程の一つひとつのレベルで、これに関わる人たちの背中を押す自然なインセンティブが働くのです。誰でもがそのポジションにいればそうするだろうというくらい自然な・・・そしてある日、明白になる。その小さなインセンティブの連鎖が巨大監視システムを構築してきたのだ、と。みんながお互いに便宜を図っているからなのだと」

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

 ディープステートといった存在を私が現実に実感するようになったのはここ1年といったことです。それまでは、あまり具体性がなく話半分くらいに捉えていたのですが、前述のとおりネット動画での情報の収集や発信を通して検閲の存在を知ったことや、ネット検索をしたときにでてくる上位の検索結果などに感じる恣意性などが重なって、やはり何かそういったことをしている企業側の人がいることを強く意識するようになりました。
 そういうことをしているディープステートと呼ばれる人たちのなかには、自分がしていることに気づいている人ももちろんいるとは思いますが、上記の記載を読んだりすると、たぶん大半の人は気づくことなく、仕事としてまじめにやっているだけなんだなと感じたのです。
 大手のIT企業で仕事をしていたときの私自身も、いろいろな道徳的な悩みを感じてはいましたが、こういったことに加担しているといった意識は全くなかったわけで、今多くの人が気づかずにしていることが監視社会を強化してしまうという点で、ディープステートという存在の厄介さを感じました。

自分に直接危害が及ばない悪にも行動を起こすことの大切さ

 この本で私が知って反省させられたことの一つとして最後に短く取り上げたいのが、自分にされたくないことに対しては、その時の自分に直接関係がないことでも、関心を持ち続け、できることはしていかなければならないということです。監視システムの多くは発展途上国で最初に導入され、それがブーメランのように戻ってきて先進国にも導入されようとしているとして、次のような一節があります。

欧米が民主主義の外部である植民地で市民権の縛りを受けずに開発した監視の手法が、いま民主主義の内部へと帰還し、地球上のすべての人々を監視対象とするようになったともいえよう。だがイタリアの哲学者ジョルジュ・アガンベンはもう一歩踏み込んで、このような法の例外状態が実は西欧民主主義システムの内部に最初から存在し、常に民主主義国家の一部とされてきたのではないか、と考える。

『スノーデン 監視社会の恐怖を語る』

 地球の片隅で行われている小さな実験的な悪事が世界的に展開されるといったことでは、今の感染症とそれに対するワクチンなどでも言えることで、自分にはとりあえず危害が及ばないところで行われていることであっても、その意図を理解し、阻止していかないと、手をつけられないモンスターに成長してしまうということに気づかされました。
 この一節にあるジョルジュ・アガンベンという人の発言は、西欧民主主義社会でしばしば見聞する二重基準を髣髴とさせるもので、少し先になりそうですが、これからの思索のよすがになりそうなので、いつかこの人の書籍もご紹介しようと思います。

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