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【ライター黎明期】そのとき彼は「ライター」という言葉に反応した

「ねぇ、聞いてもいい?……小夏ちゃんってさ、仕事やめてどうすんの?」

退職するまでのあいだ、同期・後輩・先輩を問わず、いろいろな人に聞かれた。
聞いてはいけないことを探るように、慎重に。
しかし、瞳の奥には珍しいものを見るような好奇心があったのも感じていた。

定年まで働くのが当たり前の公務員。
途中退職する人なんて、一部の変わり者だ。

「実はね、書くことを仕事にしようと思って。ライターになろうと思うんです」

わたしが「書くことを仕事にする」と前置きするのには理由があった。
それは「ライター」と言っただけでは理解してもらえないことに気づいたから。

「えっ、放送作家⁉」
「小説家目指してたの⁉」
「……ていうかライターって何?」

確かにわたしも2年前くらいだったら、同じような反応を示しただろう。
「ライター」という言葉は、わたしたちが思っているほど知られていないものなのである。

しかし、そんななかで唯一「ライター」に反応した人間がいた。

それは役所のむずかしい部署で、係長をしている同期。

一見、ライターの「ラ」の字もわからそうな彼だが、わたしが口にしたとたん、確かに彼はビクンと反応した。あきらかに眼光がするどくなったのをわたしは今も覚えている。

(わたし変なこと言っちゃったのかな……それとも話に食いついている?)

彼の反応は後者だった。
その日の帰り際、わたしは彼に呼び止められ、まさかの言葉を聞くことになったのである。

「オレも……実は……公務員っていう仕事に思うところがあってね。実は……ライター目指してるんだよね」

「!!!!!!!!」

聞けば、1年ほど前からライターに興味があり、Xやnoteで発信しているとのこと。同期の話はとどまることなく、将来的に退職して事業を始めたいことも語られた。

彼の眼は輝いていた。
このような話がわかる人にはリアルの場で出会ったことがないらしい。
「note」や「クラウドソーシング」、「ブルーオーシャン」などのワードに、わたしが理解を示したことをたいそう喜んでいた。

人とは分からないものである。

わたしが言える立場でもないが、想定外の人が実は思いもよらないことを考えていたりする。

彼は言った。
「オレも近いうちに、そっちのほうに行くからさ。それまでに経験積んでいろいろ教えてよ」と。

でも、お互いにSNSのアカウントは教えなかった。
だって、ばれたら素の発信ができなくなってしまうから。

やっぱり人は、多少の秘密がある方がいい。
そうしなければ……



「実際の同期はこんな美青年じゃない」なんてことも書けないから。

【最近の気づき】
美しいイラストを使わせていただくと、読者のみなさまからの反応が高い(?)ような気がします。
実験として、ときどき美化画像を使ってみようと思います。

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