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社会理論と社会システム アノミーについて説明しなさい。

 アノミーとは、社会規範の変容や崩壊によって生じる社会の混乱状態、あるいは個人の価値、欲求、行為の不等合状態を指す。社会学の概念としてアノミーを初めて用いたのはデュルケームである。

 自殺は、失業や失恋など個人的な事情を理由とした企図の結果であると一般には考えられやすい。しかし、なぜ国や文化によって自殺率に大きな違いがあるのかを、このような理解から説明することができない。社会の規模が大きくなれば、個人的な事情の割合は互いに相殺されていくはずである。例えば、日本とアメリカの若者を比較した場合、その失恋の発生率に大きな違いがあるとは思えない。にもかかわらず、社会の違いによって自殺率に大きな差が出るのはなぜだろうか。

 国や文化によって自殺率に大きな差があるのは、それぞれの社会には独自の文化的な雰囲気が漂っていて、それに影響を受けた人々が独自の割合で自殺へと押し出されるからではないだろうか。個人的な事情とは、そのとき、いったい誰が押し出されるかを左右するきっかけの要因にすぎないのではないだろうか。デュルケームはこのような仮説を立て、さまざまな国や地域の自殺統計を収集し、それらを比較することで、自らの仮説の実証的な考察を試みた。

 彼は『自殺論』において、なぜ経済の活況期や豊かな階層に自殺率が高いかを説明するために、無規制状態を意味するこの概念を用いた。彼によれば、経済的に恵まれた人々の自殺率が高いのは、欲望が過度に刺激されることで「無限性の病」に陥るからである。

 それに対してマートンは、むしろ経済的に恵まれない人々の犯罪率の高さを説明するために、この概念を用いた。デュルケームが対象とした人々と対極におかれた人々の行動を説明する概念として、マートンがあえてアノミーを用いたのは、経済的に恵まれない人々に対しても、欲望を過度に煽りつづけるアメリカ文化の特殊性を指摘したいがためであった。
 
(引用・参考文献)
(1)新・社会福祉士養成講座 社会理論と社会システム

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