【小説】 穴に落ちる既視感 ③最終話
穴の中で夢を見た。着物を着て文机に向かっている。右手に万年筆を持ち、原稿用紙を広げている。原稿用紙には一文字も書かれていない。足元には丸めた紙がいくつも転がっている。
しかし、実際の私は着物なんか持っていないし、まずい原稿であってもパソコンに保存しておく。言葉は肉や卵のように腐るものではないのだから、なにも捨てることはない。それとも、言葉も腐るのだろうか?夢の中で私は丸めた原稿用紙から使えるものはないかと広げている。しかし、どれも白紙だった。
そこで目が覚めた。いったい