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長めのお話

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note的にはちょい長めですが、一般的には短い小説
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記事一覧

悪魔のピアノ

 先生の家には玄関を入ってすぐ左に部屋があって、いつもは大体閉まっている扉が、ときどき中…

えるも
2週間前
10

名を呼ぶ

「すずきさん」  群集のなかで、名前を呼ばれた。振り返って私の名を呼んだ人を探したけれど…

えるも
1か月前
13

空き地

 女がひとり、スケッチブックをひろげて熱心に絵を描いている。  彼女の目の前には、空き地…

えるも
2か月前
6

わたしの家 その二

 約束の水曜、昼に出かけるはずがぐずぐずしているうちに夕飯どきになってしまった。  ホー…

えるも
3か月前
6

わたしの家 その四・最終回

 緑マンションのエントランスホールに人がいる。それも、ひとりや二人ではない。まるでダンス…

えるも
3か月前
7

わたしの家 その三

 仕事に行ったら、頭がぼんやりして上司が霧に包まれたように手のひらしか見えない。同僚が霧…

えるも
3か月前
6

わたしの家 その一

 K駅で降りた。  南北に分かれた改札の、北の階段を降りるとすぐに小さな不動産屋があって、家の写真と間取り図の印刷された紙が貼りつけてある。隣はマッサージ店でグレーの診察台と靴箱によく似た黒いスニーカーが二足。  道は左右にわかれる。左に折れてすこし歩いてまた折れて、線路沿いを進んでいく。線路の向かい側には、個人塾、クリーニング店、それから緑マンションという名の五階建ての建物があった。ぜんぶ、ネットの地図で見た通りだ。    ゆるいくだり坂をくだり終えたところに、切り分けた

鈴木の暗喩

 目が覚めたら、目の前がもやけている。  人が、いつもより少しだけ少ない。  それなのに、…

えるも
3か月前
11

必ず登場する男

「あるところに売れない小説家がいたんだ」  彼が言った。 「その小説家の名前は…Sとしよう…

えるも
5か月前
10

歯車

 昔からカラスのような習性で、光るものを見ると拾わずにはいられない俺が、大学からの帰り…

えるも
6か月前
14

内田に

 会社を出て、大通りを右に折れて石畳みの裏路地に入ると、藤崎さん、と内田が声をかけてきた…

えるも
6か月前
7

妻鳥

 柏木佐太郎は、家のなかをすっかり片付けてしまった。  半年前に妻が亡くなったことがきっ…

えるも
6か月前
9

7分

  鍋の湯が沸いて、啓太は引っ越祝いにもらったデジタル時計を見上げた。ちょうど午後6時4…

えるも
6か月前
10

【小説】 穴に落ちる既視感 ③最終話

 穴の中で夢を見た。着物を着て文机に向かっている。右手に万年筆を持ち、原稿用紙を広げている。原稿用紙には一文字も書かれていない。足元には丸めた紙がいくつも転がっている。  しかし、実際の私は着物なんか持っていないし、まずい原稿であってもパソコンに保存しておく。言葉は肉や卵のように腐るものではないのだから、なにも捨てることはない。それとも、言葉も腐るのだろうか?夢の中で私は丸めた原稿用紙から使えるものはないかと広げている。しかし、どれも白紙だった。  そこで目が覚めた。いったい