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Perfect Days

今年初めて、映画館に行った。いつ行っても空いている映画館で、さて何を観ようか悩んで、やっぱりこれを観ようか。

監督のヴィム・ベンダースは元々好きだ。「パリテキサス」のざらりとした雰囲気。「ベルリン・天使の詩」のセンチメンタル。

なんとなく寝不足で体調もあまり良くなく観に行って、ただただじっと惹き込まれた。映画を観て、元気になる、そんな映画がごくたまにある。普通に生きることへの圧倒的な讃歌。日常の繰り返しの愛おしさ。遠くから見ると平坦な日々も、近づいてみるとなんと彩豊かでみずみずしいことか。

先日配信で似たようなタイトルで、主演も同じ役所広司の「すばらしき世界」を観たばかりで、今まであまり興味のなかった役者・役所広司に今更ながら驚いたのだけど、今回はまた別の人間を見事に演じていた。演じる、というより、そういう一人の男が映画の中に息づいていた。

ホームレス役の田中泯さんも、やはり映画の中で生きていた。私が演劇人生で佇まいや言葉、表現に感銘を受けた人は多くあれど、泯さんも忘れられない人だ。二年にわたって泯さん主催のイベントに参加したとき、公演前の静謐な準備の様子、公演時の詩のような踊りは、暴力的に豊かな白州の自然と共に、印象的に私の中に残っている。確かにあれは舞台芸術の一つの理想郷であった。

さて、映画である。一人見終わって、ひどく幸せな気持ちになって、家に帰り、家でぶらぶらしている長女に「いやぁ、すごくよかった。何も起きないけど。でもそれが良かった。トイレ掃除人のNHKのドキュメント72時間みたい」と言ったら、そのドキュメント72時間みたいというのに何故か娘は強く惹かれたらしく、翌日一人で観に行った。感想は私と同じだった。もっと観たかった、と。出演者みんな良かった、と。

今年はどんな作品に出会えるだろう。それもまた、生きている喜びにつながっている。

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