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「千年女優」が描く昭和【感想など】

映画「千年女優」を観た。今敏監督のアニメーション映画。
現在2週間限定で再上映がされていて、たまたま観ることができた。
この作品は熱烈なファンが多く、noteにも熱い感想の投稿がありますので、
ここでは作品の考察からは離れて、感想というか雑記を書いてみます。


初見の感想

まずは、Xに投稿した感想の投稿から。ちなみに映画は初見です。

今回初めて観るにあたって、
伝説の大女優の一代記を描いているらしい
ぐらいしか事前情報を入れずに視聴。

伝説の大女優を通して昭和を描く、
という切り口はなかなか王道なストーリー展開で、
もともと歴史が好きな私にとって興味津々。

関東大震災の年に生まれ、激動の昭和を生きた千代子。
Xにも書いたが、歴史を一気に走り抜けていく爽快感がいい。
虚実ない交ぜのだまし絵構成もなかなか見ていて楽しかったな~。
めくるめく歴史絵巻を見ているようなわくわく感。

聞き手の立花がいい役でしたね~完全に引き立て役。
すぐそばで千代子の成長を見守るような心境で終始笑顔が止まらなかった。
水戸黄門ばりの王道映画パロディの連続もとても面白かったですね~~
「ヨッ、待ってました!!」の応酬。
90分弱という尺もちょうどいい。

2002年公開作品。当時、「千と千尋」は立ち見で観ました。
まだシネコンはなかったしネットもそれほど普及していなかった。
このころから昭和ノスタルジーが流行り始めたような気がします。
「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」もこの頃の作品。
(テイストは違いますが、好きな作品ですね。久しぶりに見たいな~)

昭和という時代

私の祖父が東京の人で(3代続くので江戸っ子)、
戦争中に疎開してそのまま今の地で居を構えたのですが、
生前、スクランブル交差点ができる前の渋谷の写真を見せてもらったこと、子どものころ青山学院で遊んだ話などを思い出していました。

千代子の生き様を通して、祖父もこういう時代を生きてきたのかな、
と思って、個人的にはちょっと感慨深いものがありましたね。

あの雪の日の出会い(2・26事件の日も東京は雪だったという)、
思想犯、追いかける憲兵、満州国、国威発揚のための映画製作、
満鉄、地元ゲリラの襲撃など。
千代子の言うところ「ばくちを重ねたような危ない世の中」だった時代。

そこから空襲で焼け野原となった東京。
そして終戦、GHQの進駐、戦後の復員、高度経済成長、そして宇宙時代へ。
時代は大きく様変わりしていきます。

ちょっと前に、高峰秀子のエッセイ「文章修行」(『コットンが好き』収録)を読んでいたため、途中から、
「千代子のモデルは高峰秀子かな?」と思っていました。

あとでいろいろ調べてみたら、
やはり原節子や高峰秀子などをモデルとしているとのこと。
だが、まったく架空の人物であるという。

高峰秀子の映画を全然知らない世代ですが、「千年女優」をきっかけに、
彼女の自伝エッセイ「わたしの渡世日記」を読んでみたいと思いました。

がれきと化した東京で

特に強烈だったのが、
空襲で焼けて黒と赤色の空に覆われた東京と、
あの日、がれきのなかで唯一残った千代子の肖像画。
この絵にどれだけ励まされたことか。
まさに戦後を生きる原動力だったのだろう。

オープニングで「千代子のテーマ」に乗って彼女の人生が
走馬灯のように流れていくなかで、やはり目を引いたのが、
がれきと化した東京で立ち尽くす千代子のシーン。

ブルーレイ収録のオーディオコメンタリーを聞くと、劇伴の平沢進が
最も難しかった曲にこの「千代子のテーマ」を挙げていた。
70数年という時間軸を丹念に積み重ねていくようなリフレインのメロディが、時計を前へ前へと進めていく効果となっていて素晴らしかった。

物語の終盤、突如傷男が現れ、鍵の君から預かった手紙を見て、
千代子がこれまでのしがらみを一気に振り払うように、
北の大地を目指して雪道を走っていくシーンも熱かったですね。

戦争と向田邦子

来月、鹿児島を訪れることにしているが、いろいろ調べているなかで、
戦前、向田邦子が鹿児島に住んでいたことを知った。

向田邦子を知ったのは、
国語の教科書に掲載していたエッセイ「字のない葉書」
あまりにも有名なエッセイですが、
大人になってあらためて読み返してみると、
ちょうど東京大空襲の後、1945年4月ごろの話だったんですね。

瘦せすぎた妹が一人寝かされていた部屋、
あの明治生まれの厳格な父が大声を上げて泣いていた姿。
短い文章ですが、最後の方は読んでいて泣いてました。。。

向田邦子のエッセイにはよく戦争の話が出てきますが、
東京大空襲当日の話も書かれています。戦争の当事者でした。

乾き切った生垣を、火のついたネズミが駆け廻るように、火が走る。水を浸した火叩きで叩き廻りながら、うちの中も見廻らなくてはならない。
「かまわないから土足で上れ!」
父が叫んだ。
私は生まれて初めて靴をはいたまま畳の上を歩いた。

「ごはん」(『父の詫び状』より)

さらに度肝を抜くのは、命からがら空襲から逃れて、
いきなり父がありったけのご馳走を食おう、と言い出した場面。


この時の心境はかなりの極限状態にあって、今日の私などにはとても理解のできないところですが、子ども心にも、おそらくこれほど強烈な体験は死ぬまで忘れることはないだろう。

戦争、戦後、昭和を学びたい

今年のやりたいこと100のうち、
昭和史について勉強したい、特に太平洋戦争について学びたい
というのがあり、今年の大事なテーマになってくると思います。

自分でもよくわからないのですが、数年前から
「あの戦争」をちゃんと知っておきたいという思いがありました。
太平洋戦争を通して昭和史を学ぶことになりそうです。

「千年女優」の感想から向田邦子の話になってまとまりのない文章に
なってしまいましたが、思わぬかたちで今年の自分にとってのハイライト
を見る思いがして、とても面白かったです。

「千年女優」は2週間限定上映。是非とも劇場へ。

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