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【 エッセイ 】 略語について考えてみた



最近、新聞や雑誌を読んでいて気づいたことがあった。それは「略語」が多いことだ。

「コスパ」「パワハラ」「SDGs」など一昔では意味も分からなかった言葉や概念を略したものが文章の中で当たり前に使われるようになっている。こうした「略語」を使うことにはどのような理由が考えられるだろうか。

まず考えられるのは、正式な言葉より略語の方が意味が分かりやすかったり、よりピンとくるということがあるだろう。

例えば上にあげた3つがその例である。
もはや充分に世の中に浸透したこれらの言葉をあえて正式名称で使うと「横文字感」が増し、かえって意味を思い浮かべるのに時間がかかったりしてしまう。逆に読みづらい文章にもなり得る。

また、「テレビ」「カーナビ」「エアコン」など、そもそも略語でないと意味が通じにくい言葉や読みづらい言葉もある。これは略語そのものが広く一般における日常用語へと変わっていった例である。

さらに、一般的に略語の主な発信源とされているのが若者とマスメディアであるが、前者は比較的よく使う言葉の割に正式名称が長ったらしいと思うのが略語を作る一因となっており、後者はより今後注目される概念として受け手に浸透させるため、意図的につくることが多いと言われている。

「タイパ(時間に対する効率性)」、「なるはや(なるべく早く)」、「マスト(絶対にやること)」などがその一例と言えるだろう。

これは裏を返せば、社会の中でその言葉や概念がどれほど注目されているかをはかる1つの尺度であり、社会の流れやトレンドが今どこに向かっているのかをざっくりと捉えることができる。

年末の流行語大賞のノミネート一覧を見て今年を振り返るように、略語もまた世相を切り取る重要な役目を含んでいるのであろう。

もう一点、私が考える略語の面白い点は、略語にすることでそれを作ったり使ったりしている人々の当該言葉に対する捉え方をうかがい知ることができることである。

どういうことかを説明する前にまず以下の就活に関する用語略語一覧を見てほしい。

流行語ランキング(マイナビ調査)

これは就活サイトのマイナビが調査した2021年度に特に使われた最新の略語一覧であるが、私が大学生として就活をしていた時期の略語にはES(エントリーシート = 志望動機書)くらいしかなかったが今ではこんなにもあるというから驚きだ。

例えば2位の「ガクチカ」。これは面接でほぼ必ず聞かれる「学生時代に最も力を入れたことは?」という質問を略したものだ。

通常はサークル、ゼミ、アルバイト等でがんばったことを答えるのが定番だが、コロナ禍のオンライン授業など人どうしの交流が少なかった近年の多くの学生が「こんな質問にどうやって答えたらいいのか?」と戸惑いの声をあげたことで生まれた略語だ。あえて略語にすることで学生の困惑が感じられる。

8位の「無い内定」も興味深い。内定が無い状態を逆にある状態「内々定」と対比させたやや自虐的な言葉。周囲が次々と就職を決めていく中で、まだ決まっていない自分に対する焦りのようなものや、そういった後ろ向きな気持ちを周囲に悟られまいとする複雑な心境を見事に表現している。

こちらも単に「内定をまだもらっていない」と表現するだけでは見えてこない就活生の気持ちを略語にすることで相手にそれとなく伝えることに成功している。

9位の「オワハラ」は私も経験がある(最もそうした略語は当時存在しなかったが)。
つまり内定を出した企業等がその学生を他の企業等に行かないよう繋ぎ止め、「今、選考段階のところはすぐに全て辞退の連絡を入れてください」と就活生に強制することを指した言葉で、「終わり」と「ハラスメント」をつなげた造語である。

「オワ活」ではなく「オワハラ」と表現されている点に就活生側の就活のあり方や企業等に対する問題意識が感じられる。学生にとって選択の余地が奪われるだけでなく、企業等の側からしても「早い者勝ち」の状況になってより獲得競争が激化するなど様々な弊害につながり得るという意味でこちらもある意味で納得させられる略語である。

このように、文章中で略語を使うことには実は大きなメリットがある。特に社会での注目の高さを示せる点や、その言葉や概念に込められた思い、問題意識をうかがい知ることができることは略語ならではの有用性と言えるだろう。

ただし、略語を使うデメリットも当然ある。
書き手にとっては当たり前の表現であっても読み手にとって意味が分からない場合がしばしばある。特にそれが頻繁に出てくる場合や重要なキーワードの場合は文章全体の意味さえ分からなくなってしまう。これでは読み手の読みやすさを顧みない独りよがりの文章となってしまう。

結局、略語を使う場合は、使う媒体、社会における浸透の度合い、読み手の年齢層、特性等を慎重に考えて使用しなければいけない。

それでもなお、上に述べたように会話ではなくとりわけ文章においては略語を使うメリットも大きいため、注意を払いながらも(必要に応じて説明を入れる等の工夫を行いながら)、ある程度積極的に活用していくべきではないかと私は考えている。

こうして考えていると、略語も思いのほか奥が深いものであることに気づくのである。




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