ファンタジー短編小説2
紀淡のリリー5
網走湖の湖畔に
オーベルジュの 北の洋々がある
小さな旅館だが
フランス料理と日本料理が
見事に創造され 触れあう
人気の旅館である
ここで修行しよう
勝手に百合は そう決めていた
断られたら 朝まで
座り込む 作戦である
ボストンバッグに スーツケース
リボンで結んだ ポニーテール
あかぬけない 百合をみて
うちでは 募集してないので
と断り 追い払う
支配人 勅使河原あきら
柔和な顔で 睨《にら》みを 利|かしたものの
哀願する少女が 気になって
玄関に 出てみた
夜十時を過ぎた頃
まだ 君は ここにいたのか
寒いだろう
とにかく中へ入りなさい
支配人はそう言って
缶コーヒーを くれた
3月の終り 網走は まだ寒い
かじかんだ手に あたたかい
人のぬくもり
きらきらきらと ひとみが濡れ
夢のはじまりに 震える
今日は 女子寮に 泊りなさい
あした 社長に 話してあげるから
ありがとうございます ありがとうございます
北の夜明けは 早い
髪を下ろし 部屋を片付け
面接へと 向かう
社長は女性であった
北野洋子 その名から
北の洋洋が生まれたのが 伺い知れる
ふくよかで やさしそうな 料理長
立石と名乗り 百合に尋ねる
調理師免許は あるそうだが
調理師免許は あるようだが
得意な料理は 何ですか
はい 大根の桂むきとにんじんの飾り切り
早さでは 誰にもまけません
料理ではないものを言って 百合はしまったと思った
<続く>
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