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かき氷の夏 

陽炎が立つほど暑い中を歩いていた。

眩しいほどの日光、汗は流れるようだ。

頭が痛くなるほどのやかましいセミの声。蝉も悲鳴を上げたいのだろう。

白い光で揺らめく道の先に『氷』の旗がヒラヒラと揺れていた。

時代を感じる昭和風の甘味屋さん。

吸い寄せられるように店に入った。

入り口も、中もあけっぴろげに開いており、風が店内を吹き渡っていく。

こんな暑さの中では、アイスクリームやケーキよりかき氷が魅力的だ。

何より、あの「氷」の旗が懐かしいし、涼しげだ。

店内は冷房もついてないのに涼しくそよ風が心地いい。

汗が引いてゆくのがわかる。

席に着くと、ちりん、ちりんと軽やかな風鈴の音。

なんていい音だ。可憐で素朴。日本の夏の音。

ここでも蝉の声が聞こえるが、まるで潮騒のように遠く、哀調を帯びて聞こえる。

店の人が注文したかき氷を作っている。

年代物のペンキの禿げた大きな氷削り器に透明なガラスのような氷をセットし削る。

シュッッシュッッと軽快な音とともにふんわり淡雪のような真っ白いかき氷がガラスの皿に積もってゆく。

美しい綿帽子のように大きくなったそれを軽く手で押さえ、シロップの雨を降らす。

花が咲いたかのように美しい赤が輝いた。

目の前にかき氷が運ばれてきた。

青いガラスの器に山盛りの氷。赤いシロップ。

昔ながらの夏の定番。

夏のお姫様のように見えた。

口に運ぶとふわりと溶け、ため息とともにその味覚を味わう。

一口ごとに体が冷えて生き返ってゆく。

あの暑い焼けた道と頭の割れそうな蝉の音の攻撃を耐えたご褒美だ。

私は昔ながらのシンプルなかき氷が好きだ。

懐かしいし、さっぱりしている。

贅沢しても練乳がかかっている程度でいい。

小さい頃から好物だが、今でも夏最高の味だと思う。

さらに、こんな昔懐かしいような茶店で味わえたら言うことなし。

クーラーではない昭和の自然な風が店内を吹きわたっていく。

生気を取り戻して、また日向に出る。

もう大丈夫だ。

見上げる空に大きな入道雲が輝く。

少し笑顔になって歩き出す。

これで今年の夏のいいことひとつ。

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