為替は通商と一体か


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貿易赤字に不満を示す米トランプ政権が、通商交渉で各国の為替政策に注文を付けている。輸出を後押しする通貨安誘導をけん制し、通商交渉を有利に進める狙いがある。だが、為替の水準は本来市場で決まるもの。国と国の協議で縛れるのか。日米韓の専門家に経緯と今後の展開を聞いた。…


■政府関与なじまず 前財務官 山崎達雄氏
足元の日米通商協議でトランプ政権は為替を扱おうとしている。米国はオバマ政権時代にも環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉で為替を盛り込もうと仕掛けてきた。そのときは日本の主張どおり、為替については拘束力の弱いサイドレター(付属文書)に国際社会の一般的な原則を書くだけにとどめ、TPPの本則から切り離した。

日米交渉の成り行きを予測するのは難しいが、TPPで徹底的に議論して合意に至った経験は大きい。為替に関する表現の内容はTPPからほぼ変えず、協定本体とサイドレターのどちらに盛り込むかが争点になるのではないか。農業や自動車などの決着とパッケージになって最終的に首脳間の政治決着になるかもしれない。それでも、事務方としては為替と通商は別物だと主張し続けるべきだ。

通商協定は政府と政府の約束であり、約束が守られなければ紛争処理の手続きを始める、といった類いの話だ。しかし、為替はまったく違う為替は市場の需給で決まるものであり、政府が関与する紛争処理の考え方にはそもそもなじまない。

米国が「中国のような為替操作は世界貿易機関(WTO)で禁止している補助金と同じだ」と捉え、通商交渉で是正を促そうとしているのであれば一理ある。だが、日本は為替は市場で決まるという基本原則を守っている。政府が相場を動かす為替介入はしばらくやっていない。もし為替介入をやるとしても、20カ国・地域(G20)や主要7カ国(G7)の共同声明にうたわれた原則に基づいて、必要最小限にとどめる。

仮に金融政策の結果として内外の金利差が広がり、円が安くなったとしても、いわゆる為替操作ではない。トランプ大統領は物事を誇張して発言することもあるが、私の認識では米国の当局者は為替政策と金融政策をきちんと区別して捉えている

北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる貿易協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」は為替に関する条項を盛り込んで話題になった。ただ、書き込まれた内容そのものに驚きはない。G20の合意や国際通貨基金(IMF)の協定に書かれている一般的な内容だ。USMCAが為替分野で互いを縛るのは、報告や透明性に限った。日本がすでに取り組んでいる情報開示の域を出ない。今の米政権も為替の扱い方がわかっていると感じた。

総合的な通貨の実力を測る実質実効レートでみると、1ドル=110円前後の相場は歴史的な円安水準にある。これは日本の産業構造の変化で生み出された面があり、経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を反映していないという見方は間違っている。

経済分析のモデル上は円安は日本経済にプラス効果をもたらす。半面、輸入に頼りつつ国内へ売る農業や中小企業にとって円安はうれしくない。こうした業種の関係者から聞こえる声も政治家は気になるはずで、結果としてバランスが働くともいえる。

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