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うっかり死んでない

40歳をとうに過ぎて結婚もしてないと、残る人生のイベントは自分の死ぐらいしかない。今の私の生活は死までの時間潰しだ。そのタイムリミットがいつ来るのか。もう来るのか、まだ来ないのか。
暗い話なんか始めて、明日にでも自ら死を迎えるのかのようなトーン。でも私は死んでいない。死んでいないはいないが、生命力に満ち溢れ、毎日明るく上を向いて歩こうってわけでもく、うっかり死んでいないって感じ。ホント、うっかり。このうっかり死んでいない時間を、私はある自販機をずっと追いかけている。追いかけ続けて4年経った。

街で見かけると「え?」と2度見したくなる、この自販機。でもこの自販機を使用したり、近づいて見てみたりしない人がほとんど。それはこの自販機がコンドームを販売しているからだ。私がコンドーム自販機を追いかけていると知ると、なんでコンドーム自販機なのかと多くの人に聞かれて来たが、それは私も分からない。多分好きだからなのだが、尋ねた人々はそれを言っても皆、納得してない顔をする。私も分からないのに、他人の納得なぞ、知らんがな。
では私のコンドーム自販機の追いかけ方の話をしよう。

1.探す

街を歩いて偶然にコンドーム自販機を見つけるのは、ほぼ無理。だから私は、予めコンドーム自販機がある場所を見つけておく。探すのに必要なのはGoogleマップだ。

私は車の免許を持っていないので、移動手段は公共交通機関と徒歩。だから探す場所は駅周辺が多くなる。行ける範囲が限られるが、元々全てのコンドーム自販機を探すつもりはなく、行ける範囲を探すと決めていたので、これでいい。
今回ターゲットにする駅、あるいは路線を決め、Googleマップでターゲット周辺を「ドラッグストア」と入力して検索する。
コンドーム自販機は薬局の前にあるのが1番多いからだ。「ドラッグストア」と入力するのは「薬局」ではヒットしない薬局が何故か存在し、「ドラッグストア」だとヒットする薬局もあるから。
検索の結果ヒットした薬局の中から、チェーン店と調剤のみの薬局を除く、主に「苗字+薬局」の店名の店舗を更に探索する。

続いて使用するのはストリートビュー。「苗字+薬局」の店舗周辺をストリートビューでチェック。ここで店の周りのどこかにコンドーム自販機があれば、地図にマークを着けて保存をする。

2.訪問

地図に保存したコンドーム自販機を訪問する。1日に何件も行くときは、1つの路線上にあるコンドーム自販機を訪問する。ここでは乗り放題チケットが役に立つ。おかげで近年は、18歳の時は見向きもしなかった青春18きっぷを活用するようになった。複雑なバスの路線図はまだ上手く読めないが、路線バスにもたくさん乗るようにもなった。新しくオープンするランドマークを見てばかりいたのに、ランドマークのない駅にもたくさん降りるようになった。

Googleマップを見ながら私が行くのは、知らない人の知らない地元。私が知らない地元は、知らない人々の生活が詰まっている。歩きながらそれをそっと覗き見るようで、とても楽しい。コンドーム自販機の訪問はストリートビューで現れる、あの黄色いピクトグラムみたいに、自分をその土地に落とす感じに似ていると思っている。

県をまたぐことも多いのだが、コロナ禍ではそれも難しい。緊急事態宣言中は自宅から歩いて行ける範囲の薬局を訪れていた。時間だけはたっぷりあったので、片道2時間くらい歩いていた。自宅周辺とは言え、2時間も歩けば、もう別の街だ。私の街から地続きにある知らない地元は、私には目を合わせてくれないが、決して冷たいわけではなく、そこに居させてくれた。

3.撮影

Googleマップに導かれて歩き、今日の目的地に着いたら、コンドーム自販機を撮影する。

撮影は記録を基本としているので、コンドーム自販機本体を正面、左右から必ず撮影する。引きで撮ったり、アップで撮ったりし、それからコンドーム自販機がある建物も撮影する。最初はスマホで撮影していたのだが、現在は小さなデジカメで撮影するようになった。今後一眼レフカメラを買う日が来るのかどうかは、私にも分からない。探し始めたばかりの頃はスマホで十分だと思っていて、カメラを買う気は全くなかった。

撮影していても人に会うことはほとんどなく、今まで声を掛けられたりした事もほとんどない。撮影は記録が基本なのだから数枚撮って終わりでもいいのだが、気がつくと何十回もシャッターを押している。1件につき、だいたい30分ぐらいかかり、平均して50枚ぐらいは撮っている。だからやっぱり私はコンドーム自販機が好きなのだろう。

3.ツイート

撮影した写真はツイートする。【今日の #コンドーム自販機 】と題名をつけ、1日1回ツイートしている。このツイートを始めて4年経った。途中、高熱が出たり、軽いぎっくり腰になったりはしたが、ツイートするくらいの体力はあったので、休んだことはない。インスタでも同じようにアップしている。
毎日違う写真を1枚アップ。1台につき、だいたい5枚くらいの写真をアップしているので、1台で5日間か。そろそろ写真のストックがないなと思えば、また出かけて撮影してくる。


これが私のコンドーム自販機の追いかけ方。コンドーム自販機を追いかけてあちこち行くうちに、1年が終わり、私はまた歳をとる。少し死に近づく。
だけど私はまだ死んでいない。写真のストックはまだあるし、Googleマップにはまだ行っていない場所のマークが残っている。

死ぬのを考えるのは怖い。いや、今と同じように生きて行けなくなる生活を想像するのが怖い。私の目の前に、きっといつかやってくるその生活を考えたくない。何も変えられないけど、それはそれ、これはこれ。難しいことはまた明日、また来週、またいつか。
さて、次はどこに行こう。

#死なない杯 #生活 #死 #時間 #自分で自分の生活を作る #写真 #旅

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