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『さよなら、ほっぺ』

雷とともに、
そのやわらかくてふっくらとした
ほっぺはやってきた
触ったら、涙がでた
これからもう、決して離さないと
誓った

ほっぺは、じっとこちらを見つめて
笑うようになった
会ったことはないけれど
きっと天使はこんなふうだろうと
思った

ほっぺは、話しはじめた
あーうー あーうー
きいたこともないそのメロディーに
心がとろけて温かくなる

ほっぺは、歩きはじめた
あっちに行ったりこっちに行ったり
なんでも口に入れながら
まるでこの世界を味見するみたいに

ほっぺは、形を書きはじめた
ほっぺは、形を作りはじめた
ほっぺは、形をうたいはじめた
ほっぺは、自分という形を持ちはじめた

ほっぺは、やがてひとりで外に出始めた
外の音や、外の匂い
外のすべてを好きになった
ほっぺは、わたしのもとから旅立って
冒険をはじめた

ほっぺには、やがて好きな人ができた
ほっぺには、とてもなりたいものができた
ほっぺには、すごく行きたい場所ができた
ほっぺには、とうとうその時がきた

わたしのほっぺ
わたしの愛しいほっぺ
いつからかすっきりとしてしまった
その輪郭を、
もう一度さわってみる

久しぶりに思い出す
雷とともにやってきた
あの時のほっぺ

今日からは、誰かのほっぺ

わたしのほっぺ、さようなら
きっとずっと、幸せになってね


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