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『奏でろ!カミナリさん』

1 恋の雷

しばらく雨が降っていません。
真冬のある日。
鼻の奥の方がくっついてしまうほどの乾燥注意報が出て、
静電気で頭の毛が逆立ちます。
風景が、まるで凍っているように思えます。

カミナリさんはしばらくギターを弾いていません。
確かに雷がドンドコ鳴ったり雨がザーザー降ったりするのは、
あまり冬にイメージがありませんけれど。
きれいな空。
雲一つありませんが、どうしたものでしょう。
きっと洗濯物を盛大に干している人がたくさんいると思われる
冬の小春日和。午後3時。

雲の間をちょちょいとかき分けて下を覗くと、
学校の出口付近をウロウロする1人の男子高校生。
熱視線の先。
男の子は、まるで静止画のようにずっと見ています。
ある女の子のことを。
誰もいないテニスコートの中、小鳥のように飛び回るポニーテールの元気な子がいます。

男の子のカバンにはちらりと見えた紺色の折り畳み傘。
カミナリさんは見逃しませんでした。
今日の天気予報は絶対的に晴れ。
用心深くて心配性でなければ、きっと傘を持ってこないでしょう。
これをチャンスに変えてあげたい。
お節介が発動しました。

心を決めて、目を瞑ります。
久しぶりだから指を回します。
左手から右手へ順番に。丁寧に。
そして天を仰いで指にキスをして、
カミナリさんは優しくエレキギターを手に持ちました。
最初の音をいい音にするには、精神を清らかにして一気に振り下ろすのがコツです。
呼吸を整えます。
そして弦を爪弾きました。

雷鳴轟き一転にわかに掻き曇り、外にいた人々は慌てて頭を抱えて走り出します。
蜘蛛の子を散らすようにとはこのことでしょう。
灰色になった空からは、大粒の雨がすべての悪を押し流すように
美しく降り注ぎます。
もちろん、カミナリさんから見える範囲のすべての場所に。

と、カミナリさんは一瞬男の子と目があったような気がしました。
空を見上げて笑顔を見せ、軽くガッツポーズをして
カバンに勢いよく手を突っ込みます。
そこへ、予想外のことで逃げるように走ってくる女の子。
それと同時に走り寄る男の子。
2人はあっという間に花の形の傘の下。

カミナリさんのギターは止まりません。
その音色に合わせるように、雨は大地を潤します。
羽を濡らした小さな鳥は、初めて存在に気づいた木に身を寄せて、
遠慮がちに雨宿りを始めました。

「きっとキミの恋がうまくいきますように」

これが必殺、恋の雷⚡
            BY カミナリさん

音楽付きで、イラスト全体を見られます↓
https://instagram.com/happyuppersmile

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