「くまの子ウーフとお父さん」 はらまさかず

 僕には、もうすぐ4才になる娘がいます。僕が朝、会社に行こうとすると、いつも「また行くの?」といいます。「会社で何して遊んでるの」ときくので、「遊んでないよ、仕事してるんだよ。」というと、「仕事って楽しい?」といいます。なんてこたえたらいいのか、困ることがよくあります。
 それは、まるで、くまの子ウーフのようです。ウーフは、「いざというときって、どんなとき?」ときいたり、「おっことさないもの、ちょうだい!」といったり。きっと、ウーフのお父さんやお母さんも、こたえに困ることがあると思います。
 ウーフのお話は、絵本や紙芝居にもなっているので、小さな子どもたちでも楽しむことができます。僕も娘に、ウーフのお話を読んであげます。娘は、ウーフが大好き。でも、娘が好きなのはウーフのもしゃもしゃの毛や、どろんこになって遊ぶところ。ウーフが考えている「なぜ?」、「どうして?」のおもしろさは、年をとっていくにつれて、どんどんわかっていくものではないでしょうか。
 大人になった僕は、娘にウーフのお話を読んであげながら、もう一つ違った楽しみをみつけています。それは、ウーフのお父さんやお母さんが、ウーフとどんなお話しをするかということです。
 ウーフのお父さんやお母さんは、それは見事に、ウーフの疑問にこたえてくれます。例えば、「くま一ぴきぶんは ねずみ百ぴきぶんか」でのことです。ずっと雨のふらないある日、水をもらいにいったウーフは、ねずみやりすに、くまのバケツはねずみのバケツの百杯分あって困る、といわれます。家に帰ったウーフは、くまは百匹分食べるから、百匹分働けばいいんだねと、お父さんに確認します。でも、お父さんは、誰の何匹分なんかじゃなく、ねずみはねずみの一匹分、くまはくまの一匹分働けばいいんだよ、とウーフをさとして、「みんなが一ぴきぶん、しっかりはたらけばいいんだ。」とこたえるのです。
 成長していくなかで、娘がいろんな疑問や悩み、不満を感じた時、僕もウーフのお父さんのように素敵なアドバイスをしたい。そう思います。
(福音館書店「おおきなポケット」、 2010年5月号掲載)

もう11年も前に書いたエッセイです。
福音館書店の「おおきなポケット」は、もうありません。いい雑誌だったのにな。なつかしい思い出です。

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