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もぐもぐorつるつる

ご飯を食べるのがとても遅かった。
まだ小さい頃のことである。
口の中に少しだけ入れ、しっかりとよく噛んで食べるからどうしても遅くなる。
せっかちな父はそれをひどく怒った。
あまりにも遅いので、もう食べなくてもいいと言って皿を引いてしまい、食材をゴミ箱に捨てた。
たたかれたことも、ある。

ぼくは父に怒られる理由がわからない。
いつも急に起こるから戸惑った。
「なぜだろう。怒られることしてないぞ」と言いたかったが、それはとうていできないことだった。時代でもある。

休日でもたまにしか家にいなかった父だったが、そのときに限って怒る。まあそれは当然で、いなかったら怒られることはないのだから。

今は理由はわかる。
機嫌が悪かったから。
これに尽きる。
仕事でも、プライベートでも忙しい高度成長時代に働いていたからだろう。
ストレスが溜まるのは、よく理解できる。

でも自分が小さい時にはわからなかった。
そんなもんである。

怒られたことでいちいち悩むことは、ない。
怒る方がおかしいと思っていたからと、決して自分は悪くないからだと信じていたからだ。

これは少年、青年期も同じ。
大人になった今までも同じ。
さすがに、自分が悪い時はわかるから、訂正しつつ反省する。

自分を信じることは、昔からの性格だったかもしれないと今は思う。

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さて、あれから早く食べれば面倒なことにはならないと考えたぼくは、食べる速度を上げた。
噛む回数を減らし、いちはやく飲みこむことにした。
さらに、一口の量を増やし、猛練習して噛まずに飲みこむことをした。

はい、あっという間に皿の上のものは跡形もないようになった。

うどんも噛まない
カレーも噛まずに米と共に飲む
たいていのものは胃で消化できると信じて噛まない

バカなことをした。
味わうことを忘れて、ぶくぶく太るのである。

満腹中枢へ届くのは食べ終わってしばらく経ってから。
その間にもお腹は減るわけで、追い食いをすることもあった。

今はどうだろうか。
今でも早食べには自信がある。
熱いのも大丈夫だから。
たいていのものは早く食べられる。
唯一、氷などの冷たいものは早く食べられない。

なるべく噛むようにしてゆっくり食べる努力はするが、子どもの時のように身につけるのが難しい年頃になってしまった。

もぐもぐとゆっくりと食べるお子たちに、早く食べろとは言わない方が良い。
彼、彼女らの自尊心を傷つけないように。
親は、我慢比べには勝つことができるんだから。

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今日も最後まで読んでいただいてありがとうございました😊

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活動のために使いたいと思います。みなさんの人生時間を幸せな時間で満たせたらと思います。読んでいただいてありがとうございます。