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【RAIN⑦〜嘘つきは誰?〜】

映像には、白壁を背景に五人の男が横並びに映っていた。
みんな同じ服装をしている。皆が皆おしなべてつば付きの帽子、青い作業着、白いスニーカーを履いていて、個性はてんで感じられなかった。これから出す問題を解かせるに当たって、個性という要素を無くしたいのかもしれない。だとしたらこちらとしては命がかかっている。ありがたい限りだ。しかし、問題形式が出題者が変わっているのかもしれない。
一方で作業着にはゼッケンが縫い付けられていて、左から田中、中西、西川、河村、村木と書いている。この並びは先程の問題と変わらない。青年も少女もモニターの映像を注視していた。すぐに問題が始まる。一瞬でも聞き逃してはいけない。この問題は早押し形式で、ある意味では殺し合いだ。少女はおおよそ中学生とはいえ、制限時間もあるし、油断はできない。
青年はそんなライバルである、少女を一瞥すると、愕然とした。彼女は瞳孔を開き。モニターを食い入るように見ていたのだ。まるで青年なんて最初からいなかったかのように。
モニターに映っている、一番左の男、田中が手を挙げ、二人の注意を喚起した。
「ではこれから問題を説明しよう」淡々と喋る田中。帽子で顔がほとんど見えないが、おそらく無表情なのだろう。ゼッケンでしか人は判別できない。
「私を含む、この五人の中に人を殺した人間が三人いる。そして、これからこの五人が左から順繰りに証言を話しはじめる。証言は全員それぞれ、二言喋るが、半分は本当のことを言っていて、半分は嘘のことを言っている。つまり全員が真実と嘘を必ず喋っている。その上で人を殺した人間三人はだれか当ててほしい。今回は選択問題だが、理由は説明してほしい。もちろん回答権は一度のみ、他の人が回答中は制限時間が一時的に止まる。以上だ」
淡々と喋る田中。他の四人も後ろに手を組んで立っているだけで全く動きを見せない。
唇を噛み締め、モニターをきっと睨み据える青年。依然として目を見開き、食い入るように見る少女。二人の関心はもう、これから出題される問題のほかにはなかった。
「では始めよう」
田中が指をパチっと鳴らす。

「私は人を殺しました。村木くんも人を殺しました」説明を終え、棒読み調に話す田中。
「西川くんは人を殺しました。川村くんも同様に人を殺しています」と中西。
「私は人を殺していないです。中西くんもまた人を殺していません」と西川
「私はもちろん人を殺していない。それに西川くんだって人を殺していないです」と川村。
「私は人を殺していないです。でも西川くんは人を殺しています。」と村木。

青年が、彼らの発言を反芻しようとする前に、モニターにそれぞれの喋った内容が文字に起こされた。現れた文字の後ろで、では、と田中が切り出した。
「三人の犯人の選択肢だが、①田中・中西・川村、②田中・西川・川村、③中西・西川・川村、④中西・川村・村木、⑤西川・川村・村木となる。一応数字で選択肢を伝えたが、覚えていなかったら犯人を名指してもいい。以上だ。制限時間は二分。はじめ」
二人の反応など待たずに、指をぱちりと鳴らし、始める田中。
随分性急だと思いつつ、問題を見入る青年。
彼は表情でこそ落ち着き払っていたが、内心は焦燥に駆られていた。制限時間が短い割に難易度が高い。モニターから目を逸らし、少女に一瞥をよこすと、彼女は彼の目の前に立っていた。
口の端を釣り上げ、青年を見据え、微笑んでいた。それはまさに冷笑だった。
固まる青年。彼女から視線を逸らし、モニターに向き直った。敵は問題だ、と言い聞かせながら。
ごめんなさい、と一言。モニターに呼びかける少女。一歩二歩と青年の手前に出て、モニターに近づく彼女。
「わたしね、わかったの」
青年を肩越しに振り返り、笑みを浮かべる少女。それはまさに冷笑だった。

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