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【RAIN⑥〜生と死と・そしてその狭間と〜】

「え、さっきの部屋に映っていた、仮面の男はどうしたんだ」
呆気にとられる青年。少女も少し驚いた様に、目を見張っている。生とか死とか、そう言った類の言葉が脳裏をよぎる。冷静に考えれば、こんな屋敷だ。何が起きてもおかしくは無い。
「死んだ。役目を果たしたからな。そして私はパンダの仮面男の様に無駄話をするつもりはない」
淡々と述べ。二人の反応を確認する仮面女。そんな彼女の言葉を受けても、青年も少女も表情を変えなかった。しかし、青年はというと、脇腹を冷や汗が伝うのを感じていた。少女も表情でこそ落ち着き払っているが、自然と拳を握っている。モニターで喋っている、仮面の人間も死ぬ。となれば、彼らの生死を掌握し、統制している人間もいるのであろう。それは目の前の仮面女かもしれないし、そうじゃないかもしれない。むしろ彼女さえも生死を握られている。その可能性は高い。いずれにせよ、相当な人数が関わっている、言わば組織犯罪の可能性は高い。本当にこの部屋は出られたとして、屋敷を出られるのであろうか。いったい全体この時間に何が屋敷内で、そして屋敷の外で起こっているのだろうか。
「しかしまあ二人ともさっきはよく、あの状況で、紙も何にも使わずに問題を解けたな。そこには感心した。問題は簡単でも冷静さを欠いては時間内に解けないことも多い。拍手を送ろう」パンパン、といかにも演技めいた拍手を二回送る仮面の女。睨む様な眼差しで彼女を見据える青年と少女。
「嫌われてる様だな。まあいい、本題に入ろう。やることは、基本的に同じだ。問題を解く。それだけ。しかし、今回は二人いるということで、問題の前に、ルールと正解後の報酬について説明しよう」
声が明るい、仮面越しにも、嬉々として説明しているのがわかる。そんな仮面女の様子に内心、戦慄を覚える青年。少女も、握りしめた両拳が震えていて、動揺が伝わった。おそらく、目の前のモニターに映っている、この女は何人もの人間の死というのを目の当たりにしているのだろう、それも不適切な形で。しかし、向き合うしかない。どんな不安な表情もこれからはおくびにも出すまい、とモニターに向き合った。
「まず、ルールだ。まず、答えについては、前回同様その理由を説明しなければいけない。答えるときに10秒以上沈黙があれば、その回答は不正解。問題自体は以前より複雑だが、与えられる制限時間は二分と、以前より短い。次に正解の報酬だが、ひとつは部屋を出られるということだ。そしてもうひとつは、何故二人がここにいるかを教えられるということ。もちろん、不正解したものは部屋を出られないし、何も知り得ない。部屋を出ても出なくてもその先に何があるのかは、こちらから教えられない。以上だ。質問はいっさい受け付けない。準備はいいか?」
 矢継ぎ早に、そして事務的に話す仮面女。ところどころ声が枯れている様だが、滞りない説明だった。もちろん、拒む選択肢はこちらにない。一人が拒めば、二人ともこの部屋に放置されるかもしれないし、あるいはやってきた何者かに襲われるかもしれない。それだけの話だ。二人とも、生と死の狭間にいるのだ、そして結果の如何によって彼女を見殺しすることにもなる。でも仕方ない。運が悪かった。ひたすら自分に言い聞かせ、覚悟を決める青年。
少女も、覚悟という覚悟を決めた様にモニターを一点にみつめ、二人はゆっくりと首を縦に振った。
「では健闘を祈る」

仮面女が言い終えると同時に、映像は切り替わった。

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