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【同じ時間・異なる考え】

「Bちゃん本当ごめんだけど、宿題見せて欲しい!宿題やる暇がなくて」
高校生だというのに、なんとも恥ずかしい頼みだ。でもここは恥をしのんででもお願いしないといけない。なぜならあたしは勉強なんてまるっきし苦手で宿題に目すら通していなかったからだ。そして、この宿題は未提出でも、間違いだらけでもどちらにせよ、間違いがあれば放課後残ってやり直さなければいけない。だから自分でやっても仕方がない。そういう理由もあって戦略的にやらないことにしたんだ。苦手なものとは、誰かに頼むまでのことだとも思う。そして、この手の宿題の正答率はBちゃんが圧倒的に高い。だからこそ、彼女に頼んで貴重な放課後を確保するんだ。もちろん恥を承知で。
「う、うん。今日のは、確か数学だよね。字が汚いかもしれないけど、はい」
伏し目がちに頷き、慌てて机からノートを取り出すBちゃん。なかなか申し訳ない所業だ。宿題できなかった理由が、韓国ドラマ見すぎてしまったからだなんてとてもじゃなあいけど言えない。
「ああ、ありがとう!そうそう!これこれ!てゆーかめっちゃ字が綺麗じゃんか!ちょっとイヤミ〜??」
冗談っぽくあたしがからかうと、慌てて首を横に振るBちゃん。大人しめの子はちょっとした冗談でも大げさに反応するから面白い。
しかし、とりあえずよかった。おそらくみんな忘れてるから、写メ撮って見せてジュースでも奢ってもらおうかな。
「そんなことないよ。急いでやったから心配だったんだ。とりあえずAさんが読めるならよかった」
どこまでも優しいBちゃん。心に瞳があるのならば、その瞳は彼女の優しさに潤んでいることだろう。
「いえいえ、しっかしBちゃんは本当に頭が良いよね。関心しちゃう。いっつも学年一位だし。どうしたらそんな頭良くなれるの?」
「そんなそんな!全然頭良くないよ。」
やはり大仰に首を振るBちゃん。この大げさな反応も素でやってるから面白い。
「いやいやご謙遜!うちなんかスポーツしかできないから、本当頭脳分けて欲しい」
半分本音で半分冗談だ。勉強ができれば、後の人生楽だろうし、本当に羨ましい。
「勉強なんて・・・」
「Aちゃん、話そう」
Bちゃんが何かいいかけている時に、いつも仲良くしているCが話しかけてくれた。Cのチャームポイントでもある、ぱっちりとした大きな瞳は女のあたしも吸い込まれそうなほど澄んでいる。いつもCはあたしに話しかけてくれるけど、話しかけてもらえるのは本当毎回嬉しい。うん、嬉しい。
「うん。話そう!!じゃあ、Bちゃん授業までにちゃんと返すね!ありがとう」
「うん」
相変わらず伏し目がちのBちゃん。とにかくありがとう。
「まったね〜♩」
「また」
早くドラマの話をCとしたいな。
               *(B目線)
「Aちゃん本当ごめんだけど、宿題見せて欲しい!宿題やる暇がなくて」
朝のホームルーム前の静かな時間に、やかましい女がまたやってきた。宿題のある日は必ず、満面の笑みを浮かべてAがやってくる。申し訳なさなど微塵も感じれらない。
そもそも私はちゃん付けで呼ばれるのが馴れ馴れしくて嫌いだ。もっとも、ノートを渡す時にしか話しかけて来ない彼女はもはや馴れ馴れしいの域を超えて図々しいわけだけど。
それでもノートを渡さなければいけない。クラス一の美人である彼女に目くじらを立てられたのでは、色々と煩わしい事が起きるだろう。たかが高校の人間関係とはいえ、波風を立てるわけにはいかない。
「う、うん。今日のは、確か数学だよね。字が汚いかもしれないけど、はい」
それでも、話しかけられることに慣れてなくて、緊張してしまう私。本当にくやしい。
「ああ、ありがとう!そうそう!これこれ!てゆーかめっちゃ字が綺麗じゃんか!ちょっとイヤミ〜??」
意地悪そうに微笑むA。私はこうした冗談も嫌いだ。そもそも大半の人はAより字が綺麗なのではないか、と思う。もっとも彼女の筆致を一度足りとも見たことなんてないけれど。
「そんなことないよ。急いでやったから心配だったんだ。とりあえずBさんが読めるならよかった」
とは言いつつも社交辞令でAを気遣う私。ヒエラルキーというのは恐ろしく、本当にくやしい。
「いえいえ、しっかしBちゃんは本当に頭が良いよね。関心しちゃう。いっつも学年一位だし。どうしたらそんな頭良くなれるの?」
またこちらを持ち上げる冗談をつくA。彼女の頭が悪いのは、ただ単に勉強をしていないだけだろう。おそらく、彼氏とか勉強苦手とか韓国ドラマを言い訳にして。
「全然頭良くないよ。」
このやりとりに辟易としているせいだろう。自分でもわかるくらいに俯きがちに答えている。
「いやいやご謙遜!うちなんかスポーツしかできないから、本当頭脳分けて欲しい」
私はスポーツができないから本当にAの方が羨ましい。それこそ、私からすれば嫌味だ。なにせスポーツができれば、大方コミュニケーションや友人関係に困らないのではないか、と思う。いつも友人関係やコミュニケーションに困っているのは、運動が苦手な子か勉強や読書に没頭する子ではないか。
「勉強なんて・・・」
「Aちゃん、話そう」
私が言いかけていると、間に入ってAに声をかけるC。もはやAの耳に私の声は届いていなかった。
「うん。話そう!!じゃあ、Bちゃん授業までにちゃんと返すね!ありがとう」
早くCと話したい、と言わんばかりに適当に切り上げるA。同じように下を向きながら適当に頷く私。
「うん」
「まったね〜」
「また」
ノートを貸していただけなのになんでだろう。本当にくやしい。

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