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夏合宿「体育会系の刑務所だぁ!」

合宿初日、ランニングからはじまった
夜行バスで完徹状態の私は早々に足が止まってしまった

熱中症の件があるので先輩も無理に走らせないで
休むように言ってくれた

昼になり同期が帰ってきて「大丈夫かー?」
「昼飯ゼリーにしてもらうように頼んだぞー」
と優しい

昼からも泥のように眠らせてもらった

夕食から合流する
食欲はなかったが流し込むように食べた
明日からの練習にむけて栄養を摂らないといけない

ルールとして食事中の私語は厳禁
こぼすのも厳禁
残すのはなるべく禁止
漬物類の皿は上級生から取り回す
着席しても先輩が箸をつけるまでは黙想待機
手はお膝

※平成中盤の話、昭和の香りのする文化が
色濃く残っている部だった

その後には風呂。
制限時間は5分。
髪を洗って身体もついでにシャンプーで洗い一気に流す。
ほとんど湯が残ってない湯船に1分くらい浸かっておわり!

風呂好きとしてはこれは地味に苦痛だった
芋洗いじゃねぇか

晩のミーティングは参加した
もちろん小一時間、正座、苦痛
最後に携帯電話を先輩が回収すると言う

「毎年逃げようとする奴がいるから回収」
まじか〜…てか毎年脱走者いるって
これからどんなことするんやろ

「このあと持ち物検査します」
お菓子類は没収された
貴重な糖分が預かり袋に入れられる


お菓子パーティするつもりだった同期とションボリしていた

1回生の部屋がガラリと開いて

「明日は夜明け時刻からランニング。それまでに身支度を済ませておくこと。はい、就寝。」

え?ご飯の前に走るの?
お腹空くじゃ〜ん
そんなアホなことを考えて眠った

あっという間に朝になる

私は寝起きがいいのでグズグズ眠る同期を起こす
「そろそろ着替えんと間に合わんで」
顔を洗い身支度を整える

廊下で先輩に会うと壁際に身を寄せて挨拶する
「もうすぐ出るから全員起こせ」
「はい」

同期がまだ布団に眠そうにくるまっていた。
やばいやばい!起きてぇ〜!!

服を準備して無理矢理布団を剥がして
適当に取った練習着に着替えさせた
まだ寝ぼけている同期の手を引いて玄関にいく

遅れると全員が怒られるんだよぉ…

直立で先輩たちを待つ
同期は走り出すまで立ったまま寝ていた


90分ほどの軽めのジョギングだった
給水は一応ある
だが朝からこんなに走る必要ある?と
まだ起きてない頭で考える

民宿に戻って朝食のふんわりいい香りがした
着席して黙想する
上回生が来るのを待つ

冷めるから早くきて欲しいなぁ…
腹の音だけが響く
「黙想やめ!頂きます!」
合図で食べ始める

黙っていたが先輩はフルメイクだった
化粧待ちだったのかよ…とイラっときた
一回生はもちろんスッピンだ

問題なのはご飯に対して
おかずが異様に少ないことだった
しかも山菜

肉食いてぇ〜…せめて卵〜…

テーブルの上にあるアジシオを白米にかけて
塩分不足にならないように補給する

この土地の郷土料理が基本味噌味なのだ
当時、味噌が苦手で地味に辛かった
精進料理風のおかずが並び
静かな食卓であまり箸がすすまない
会話のない食卓ってよくないよなぁ…


午前と午後合わせて
4R射つ(50m30m72射×4)
もちろん全部点数をつけて提出する
静かで涼しくて練習だけに集中できた
ここの土地は蝉の種類も違う

もちろん筋トレもある
回数は決まっていない
腕立てでは先輩がいいと言うまで地面に顎をつける
「オラァ!ケツあがってんぞ!」と軽く踏まれる

ドチャッ…と同期が次々と落ちていく
もう腕が上がらないのだ
ある程度のところでやっと終わりの号令がかかる

「もう立てない」と言う同期の横で
ちょっとだけ休んで戻ろう
痛いかもしれないけど我慢してねと
腕の張りを取るツボを軽く押す
気休め程度に疲労が取れるからね

まだ2日目だ
…甘いものが食べたい
…お風呂にゆっくり入りたい
…音楽が聴きたい

そんな小さなフラストレーションが溜まっていく
当時の練習ノートにもアホなメモが残ってある

その日の夜寝る前に布団を被って
何かが弾けてしまった
「もう嫌だ〜!帰りたい〜!!」
「こんなの体育会系の刑務所だぁ〜!!」
とワンワン大騒ぎした

薄い壁一枚隔てて隣にいるペアの先輩が来て
布団を蹴られる(踏まれる)
「うるせぇなぁ!メソメソすんな!便所行って寝ろ!この甘ったれ!」

「…優しくしてよぉ」とぼそりと言うと同期が
ヨシヨシと頭のあたりを撫でてくれた
その子は歳の離れた弟がいて面倒見がよかった

私はまだそれを口で言えたから
爆発しても次の日にはケロッとしていた
「ホント恥ずかしい奴だな」と先輩に頭をはたかれる
「すみません…」

弱音を言えない子もいて、いきなり泣いて動けなくなり途中で離脱することになった

3日目4日目も変わらず練習をこなす
まだ朝霧が消えてないところを走るのは気持ちいい

「たまに熊がでるんでなぁ」と民宿の人が念のため熊鈴を渡してくれた
熊に怯えながら走る
集団じゃなきゃ無理だなと思った

日程がまだまだ半分にも経ってないことに
若干の絶望感を覚えながら
洗濯物を干す
洗濯は下級生の仕事だ

4年の下着をみてメロンでっけぇな〜…と
同期とウンウン頷く

5日目に理系学部に通う同期が履修の関係で一旦抜けることになった

「7日目に帰ってくるね」
「またなぁ〜」みんなで見送る

結果的に帰ってこなかった
10日目に合流予定だったのだが諸事情あり戻れなくなったと先輩から聞かされる

合宿明けにも帰ってこなかった
辞めてしまった


やっと折り返しを迎えた

この頃には環境にも理不尽にも慣れて(麻痺して)とにかくこの合宿を乗り切ることを目標にした

無駄口を叩く気力もなくなり
暇があれば弓具の手入れをしていた

忘れていたが合宿のしおりには
「今日の午後サプライズ!」と書いてあった

OB訪問だった

「集合!」
ザッと並ぶ
「遠いところありがとうございます!」

とゆうわけで〜
「紅白戦をしま〜す!」
「買った方にはスイーツあるでぇ」

全員の目の色が変わる

メンバーが発表されて
粛々と点数が決まっていく

…ケーキ?
…アイス?
…チョコレート?
…いや、和菓子か?

頭の中は完全にスイーツ
だけど点数は順調に取っていく

私のチームは負けた
膝から崩れ落ちてしまいそうなくらいショックだった
チーム内では真ん中くらいのスコアを出していた
確実に上手くなっていた


賞品はちょっといいあのアイスだった
見ると辛いので無言で弓具の手入れをする
完全に拗ねながらだった
イライラする

自分と同じチームの自分よりスコアが低かった先輩に嫌味を言ってしまいそうで
口をキュッと閉じて合宿終わったらアイスをドカ食いすると心に決めた

OBは初めから2種類差し入れを用意してくれていて負けた方にはビー玉が入ったラムネを用意してくれていた

久しぶりの炭酸と糖分に自然と笑顔になる
びっくりするほど単純な性格だと思う
「美味しいです」
飲み終わってビー玉を取り出して弓具ケースに仕舞った

その夜は大広間でOBが酒盛りをしていた
もちろん私たちもお相手することになる
先輩からは「とにかく失礼のないようにね」
と念を押される

だるぅ…コンパニオンじゃん…

風呂上がりに髪だけまとめて行こうとすると
「ちょいちょい!」と同期に止められる
「リップくらい引いていき!」
と紅筆で可愛くしてもらった
ティッシュを一度咥えていい色づきにされる

「うぉ〜えっろ…素質があるわぁ」

やったのはアナタでしょ〜と
ブチューと唇を突き出す

「言動で台無しじゃん」笑

まぁ行きますか。

すごく盛り上がっていて比較的人が少ない場所を選んでその場にあった瓶ビールをお注ぎする

自己紹介して先輩の思い出話を聞く
「飲むか?」と聞かれて「まだ未成年です、チェイサーで酔えます」とにっこりお断りする

最終的に仕事の愚痴まで話していた
社会人って大変なんだなと痛感する

「別のお酒作りましょうか?」
「あっちにある程度種類あるんで
お好みでカクテルにしてきますよ」

お酒を出すバイト先である程度の種類くらいは知っていた

1番簡単なレッドアイを使って持っていく
「飲ませる才能あるねぇ」
「しかも聞き上手だしなんか得した気分」

「末っ子なんで年上の人のお話聞くのは大好きです」

順番に挨拶して回ってドッと疲れた
割用のジュースも飲むなと言われていて
水でお付き合いした

一回生はそろそろお開きにしなさい〜
先輩が離席を促す
ラッキー!

「明日からもよろしくお願いします!失礼します!」といって襖を閉める


ハァー終わった終わった

身体がバキバキだ
ストレッチをしてると
同期が小声で全員集めて「ねぇ…おつまみで出てたチョコレート人数分持ってきちゃった」と悪い顔で笑う

廊下を確認してみんなで共犯となった
匂いでバレないように窓も全開にしておいた
電気を消しても酒盛りは続いていて
うるせぇなぁ…とイラついて眠った

次の日OBたちは昼過ぎまで起き上がれなかった
明け方まで飲んでいたらしい
社会人は辛いんだな

夕方からは男子の方に行くらしい


何事もなかったようにまた練習漬けの日々が戻ってきた

このくらいになると身支度も早くなった
風呂もシャワーで流すのではなく湯船からザブザブお湯をぶっ掛けて一気に洗ってまたザブザブ流して仕上げにシャワーの方式で時間短縮をした

食事も咀嚼が異様に早くなった
味噌も美味しいと思えた

歩くのも早くなり動きが変わってきた
夏を制した気がした

腹筋は薄らと割れていたのが皮下脂肪が削られたおかげで影がはっきり見えるようになった
あぁ、普段甘いものばっか食べてたからだなと反省する

ここはダイエットビレッジでもある 
デジタルデトックスもされて心なしが視力も良くなった気がする(気のせい)
確実に飛蚊症の症状は引いた

最終日前日の試合形式での点数取りも無事に終わった

そこそこいい記録が出た

今夜眠ったら帰らないといけないのかぁ
少しだけしんみりする
いやいやいや

足や手の水膨れをライターで焼いた針で潰すのは二度とごめんだ

合宿のしおりに「筋肉痛にはバファ〇ン」
最低2箱用意すること、と書いてあってそんなに飲むわけないと思っていたがめちゃくちゃ飲んだ
乱用だ

湿布より内服の方が効くと知った

あと感情はなるべく表に出せる時に出した方がいい

あれ以来、様子のおかしい同期にはなるべく話しかけた

随分と人数が減ってしまった
いきなり居なくなられるのは堪える
合宿後半は練習ノートにもアホなメモはほとんど残ってなかった
自分自身にも余裕が無かった

でもやっと終わる
あぁ、帰りたい

帰りのバスで男子と合流する
「お疲れ〜!!!!!」
またギャァギャァ騒ぐ
あっちは脱落者はいないらしい

「なんか女子顔付き変わったな?」
「痩せた?」
そうだよ、大人になったんだ

途中のパーキングエリアで風に当たっていると
将来のseason2に話しかけられる

「おい、コレ酔ってからも効く酔い止め、液体の。やる」と差し出される

「疲れてると酔うから一応持っとけ」
「お前、行きの時しんどそうやったやろ」

「ごめん、行きは緊張しちゃってめっちゃ酔った」と笑う
「ありがとう…」
「でも、今はすごく眠たいから大丈夫だと思う」
「迷惑かけてごめんね」

「酔ったら早めに誰かに言えよ、誰も起きんかったら俺でもいいから。電話鳴らして起こしてくれていいからな」と先にバスに戻って行った

結局バスでは眠れない体質で酔った
貰った液体ドリンクのおかげで少しマシになる
だが案の定1時間もしないうちに目眩がしてくる
隣に座ってる同期の子に

「ごめん、また酔った」と起こす
「えっ、大丈夫?!ちょっと待っててね」
寝ている人の未使用のエチケット袋を5枚くらいかき集めてきてくれる

「大丈夫パーキングまで我慢できるから」
「でもマジでアカン時には起こしていい?」

「いいよ。あんまり我慢しないでいいんやで」
「みんな寝てるし大丈夫大丈夫」

この合宿でお互い散々恥ずかしくて情けない部分を見せ合った
裸だってみている
何というかもう取り繕えない関係だった

なんでこんなに三半規管が弱いんだろう
酔い止めも飲んでるのに辛い

トイレ休憩でまた個室から出られない
最後までみんなに迷惑をかけた1年目だった

やっと出られたら同期の子がミント系のガムやら炭酸水やら差し入れてくれた

有り難くて泣ける


大学に着いて帰りの円陣が終わって解散した
フラッフラだった

実家に帰り家族がシュッとした私を見て驚いていた

少し休んでから、身体がふやけるほど風呂に浸かり気が済むまでトリートメントもした

母の作る料理も久しぶりに食べた
炭水化物・肉・肉・肉
今日だけ許して〜!と禁断のマヨネーズをぶっかける。そしてポン酢。
最高…

冷凍庫にあるアイスとホットコーヒーを交互に食べる

その様子を見ていて「飢えてるなぁ…」と家族に笑われる

自分のベッドに横になり5秒で眠りに落ちた
次の日は午後まで起きなかった

もう二度と体験できない夏合宿(1回目)の思い出。甘酸っぱくて苦い体験である。

合宿ってもっと和気あいあいとしてるものだと思ってた。

花火とかバーベキューとかして親睦を深めるモンだと思ってた。

海とかでキャッキャするもんだと思ってた。
だが、合宿所は海なし県だ。

2年目はあんまりカッコ悪いところ見せたくないなと思ったが2年目もまた別のことで大騒ぎする。

(1年目の夏合宿おわり)

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