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夢に現れるそれらの話

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夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。
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植林

植林

 苗木を植えて、今日も植林。

 森が増えて、みんながにこにこ。
 手伝う人も増えて、僕もにこにこ。

 海にも生えるその木の、
 生命力がすさまじいこと。

 それでも、緑が増えて人類は僕を称賛した。

 その内、海が消えて、雨が降らなくなり、
 水は吸い尽くされ、人類は滅亡の一途をたどる。

 これは植林という名の人類滅亡計画。

 それでも僕は救世主として、人々に崇められる。

回し車

回し車

 ハムスターが回し車に乗っている。

 乗っているだけだ。
 先ほどから、ひと回しもしていない。

 眠っているわけではない。

 ただ、辺りを見渡し、
 戸惑っているように見える。

 もしかして、回し方を知らないのだろうか。

 僕は親切心で、回し車を指で押した。

 くるりと回ったそれに引っ張られ、
 ハムスターは宙を舞った。

 そして、そのままどこかへ消えてしまった。

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猛獣

猛獣

 柵の向こうには猛獣がいるらしい。

 姿を見たことがない。
 声も聴いたことがない。

 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。

 それでも何かがいる気がした。

 ある日投げ入れてみた生肉は、地面に落ちる前に消えた。

 きっと何かがいるのだろう。
 僕の知らない猛獣が。

型落ち

型落ち

 型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。

 ひと月前まで最新版。
 今では旧版型落ち品。

 彼と僕の何が違うのだろう。

 見た目が違う。
 優しさが違う。
 賢さが違う。
 何もかも違う。

 誰かが僕に石を投げた。
 あんまりじゃないか。

 まだ使える身体。
 まだ動く頭。
 だけど、歪んだ心。

 僕は街の隅っこで破壊を夢想する。
 まず手始めに、最新型の振

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本立て

本立て


 本立てに並べた本がいつの間にか消えている。

 それも一回だけではない。
 ここひと月で三回もだ。

 さすがにおかしいと思う。
 だが、僕の部屋に僕以外の出入りはないし、泥棒が入った形跡もない。

 だったら、考えられるのは一つ。

 僕は本立てをつついてみる。

 すると、ぽんっと音を立てて、薄い本立てから本が数冊出てきた。

「また、隠れて読んでたな?」

 僕が言うと、

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プリント

プリント

 開けた窓からプリントが入ってきた。

 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。

 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。
 だが、僕はみるみるその内容に青ざめた。

 それは家庭訪問ならぬ、家庭襲撃のお知らせ。

 教師だけではなく、生徒も地域の家々を回り、襲撃するのだという。

 場所を見る。

 慌てて、日付を見る。
 続けて、時間を見る。 

 あと三分。
 あと三分で

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羽根つき

羽根つき

 楽しい楽しい羽根つきは、
 誰としたのか覚えていない。

 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、
 今でも消えることはない。

 それどころか広がっている。

 はじめは何と書いてあっただろう。
 もう忘れてしまったそれは、僕の身体を蝕んでいく。

 それは痛い。
 それは辛い。

 だから、僕は見知らぬ子を羽根つきに誘った。

 勝った僕は、黒く染まった自分に筆を滑らせる。

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味覚

味覚

 食べても食べても何も感じない。
 
 失ったのは、味覚。

 僕は早くそれを取り戻したくて、
 異常に甘いもの、
 異常に辛いもの、
 異常に苦いものを食べた。

 何も感じなかった。

 ならば今まで食べる事すら怖かったものを。
 土、錆、生臭い肉。

 まだまだ足りない。
 ネズミ、モグラ、死んだネコ。

 何も感じない。

 ならば、もっともっと怖いものを。
 死んだ人間。

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王国

王国

 そこは僕にとって王国だった。

 みんな僕の言うことを聞く。
 みんな僕に気を遣う。
 みんな僕に笑顔を見せる。

 住みやすい王国だった。

 それがたとえ作り物でも。

 動かなくなったアンドロイドたち。
 地面は油でキラキラと光っている。

 僕の王国を壊したのは誰だろう。

 僕はアンドロイドたちの部品を回収し、
 すべてを混ぜて繋ぎ直した。

 完成した大きくてぐちゃぐち

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馬屋

馬屋

 馬屋の中で何が育った?

 馬が怯えて逃げていったこの馬屋。
 何もいないはずなのに、何かが蠢いている。

 餌箱と、仕切りしかないこの小屋で、いったい何が。

 空のはずの餌箱を一つずつ覗いていく。
 何もない、次の箱も何もない、次も、次も。

 最後の餌箱。
 暗いその中に何かが蠢いている。
 
 そういえば、馬屋で生まれる聖人の話があったような。

 まさかと苦笑し、覗いてみた。

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培養

培養

 僕の趣味は培養だ。

 シャーレの中で小さな小さな生き物を育てる。

 丁寧に栄養をやり、日を当て、必要な物をそろえる。
 それらはすくすくと育っていく。

 ある程度の大きさになると、液に漬けて更に大きくする。
 その間にも、シャーレの中で培養を続ける。

 そうしてできた、たくさんの僕。

 僕が僕を培養し、培養された僕が僕を培養する。

 部屋は僕で溢れている。
 廊下も僕で溢

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鮮明

鮮明

 あそこはどこだったのだろう。

 僕の中に残り続ける鮮明な記憶、その景色。

 路地裏の込み入った場所だった。
 錆びた鉄筋が印象的だった。

 そこで僕はあまりに色鮮やかな飴細工をもらった。
 それは金魚だった。

 暗い路地裏。
 錆色の建物。
 真っ赤な金魚。

 僕の中に鮮明にこびりつくそれは、地図にない。
 
 どこにも存在しないのだ。

神隠し

神隠し

 神隠しにあったのは、僕か世界か。

 裸足で白い空間をひたすら歩く。

 はじめは世界を探していた。
 だが、今となっては惰性だ。

 変化のないそこを、
 腹も減らず、眠りも訪れず、温度も感じず、
 ただただ、歩く。

 疲れもしないものだから、延々と歩けてしまう。

 僕の周りから、突然世界が消えてしまった。
 世界から僕が消えてしまったのかもしれない。

 どちらにせよ、僕はも

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巾着

巾着

 巾着の中には何がある?

 流れ星の金平糖に、
 月の欠片の琥珀糖。

 天の川のゼリーと、
 地球飴玉もある。

 巾着の中にはおいしい宇宙。

 夜の暗い部屋でもへっちゃらになる。

 それは魔法の優しい巾着。