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亡くなった祖母にいま、どうしても聞きたいことがある【家族ものがたり・祖母編】

「家族の間で共有されているルール」といえば、何が思い浮かぶだろうか。洗濯や食器洗いといった日常の行為をはじめとして、年中行事の過ごし方なんかにも、その家族”らしさ”が表れる。

私の実家にももちろん、それらがあった。今日は、我が雁瀬(がんせ)家の奇妙な風習を、父方の祖母の思い出とともに振り返りたい。

世にも不思議な「祖母ルール」

なぜこんなことを書こうと思ったか。理由は今年が、ちょうど祖母の7回忌にあたるから。昭和一桁の時代に生まれ戦争を乗り越え、84歳になるまで生きた祖母。我とこだわりの強い人で、愛情をかけてもらったが大きな喧嘩もよくした。

とにかくこだわりの強い人で、かつそのこだわりというのが、ユニーク、いや、正直に言ってしまえば「意味不明」なものが多かった。

例えば

・洗濯物をこたつの中で乾かす
・洗濯の「すすぎ」部分だけは洗濯機からわざわざ洗濯ものを取り出し自ら手洗いする
・かけ布団で首に重なるあたりに片栗粉で糊付け?したタオルをかぶせる(片栗粉の成分ゆえなのか、タオルはがっちがちに固くなるのでタオルが顔に当たるたびにひどく痛む)

など。

彼女自身の拠り所となる迷信もたくさん持っていて、ハンガーにかかってあった服をそのまま着ると「早死にする」し、人が出ていった玄関をすぐに掃き掃除すると、その人に「災厄が訪れる」らしかった。

そうした『祖母ルール』のおかげで私は今もハンガーから服を取ったあと、いったんたたむという行為を挟まないと袖を通せない人間になってしまった。

面倒くさいし、迷信じゃんと頭では思っているのに、袖を通そうとした瞬間に違和感を覚えてしまう。そのまま着るとどうにも心地が悪くなってしまうのだ。

「横着したら、はよ死ぬで!!」という祖母の言葉が沁みついてしまったのか。良くも悪くも影響をもろに受けているということだろう。

さて、そんな祖母ルールは年中行事にも表れる。そのひとつがこのnoteで伝えたい「年越しそば」を食べるときの話だ。

あぁおばあちゃん、おばあちゃんが今ここにいてくれたなら、私はどうしても聞きたいことがあるの。

雁瀬家では大晦日の夜に、蕎麦の麺を使って「金」という文字を半紙に書く。この不可思議な行事は、いったいぜんたい、どこの誰から仕入れてきた情報だったの?と。

蕎麦で文字を書く

年越し蕎麦で文字を書く、そんなまったく意味のわからない風習のあるご家庭に、私は今日にいたるまでついぞお目にかかっていない。

本邦初公開 雁瀬家の蕎麦文字「金」

12月31日の夜。母が作った年越しそばを前に全員が着席する。出来立てだから当然、蕎麦は熱々だ。その湯気立つ汁からお箸も駆使しつつ麺一本一本をつまみ上げ半紙に「金」を描いていくのだ。

半紙は汁と麺でびしょびしょ。乾くのを待ち、麺文字(造語)された「金」はその後、家の神棚へとお供えされるー。

こうすることで、次の1年、お金がよく貯まると祖母は言った。根拠は不明。祖母がそう信じたから、我が家の中では蕎麦で文字を書くことの意味は、そうでしかなかった。

いや、麺で文字書く、て。
しかも「金」やぞ、「金」。

どれだけ欲深いのか、我が家は。百八の煩悩を除くという、除夜の鐘を聴きながら、粛々と金を書き続けたことが、小学生の頃の大晦日の忘れえない思い出だ。

大切にしたい家族のエピソード

祖母が亡くなってから、この「蕎麦文字セレモニー」は雁瀬家から姿を消した。祖母が生きていた頃から、祖父にいたっては「わしはもう金は要らん。」とか言ってこの行事に参加していなかったし、父ですら「意味ないやろ。」と興味関心すら持っていなかった。

嫁であった母と私たち姉妹だけが、祖母に気を遣いながら毎年毎年「金」と書き続けていたのだ。ただこれも祖母が亡くなることで「もう…いいよね。」となったわけだ。

ここまで書いておきながら、私はこの風習が気に入っている。「金文字」を書くことはしなくなった今だけれど、「こんなことしてる家ある?」と人に話せるネタとして、好きなのだ。

このnoteをご覧になったどなたかで、もしも同じ事柄をされているご家庭があれば、ぜひお教えいただきたい。そして、その時の思い出を語り合いたいと思っていますww

でも本当はね、おばあちゃんに直接聞きたかったなぁ。「おばあちゃん、これいつからやってんの?誰に聞いたの?」ってね。そこにいるときは当たり前すぎて、なんの好奇心も持たなかった。でもこの蕎麦文字以外にも、きっとまだまだたくさんの家族エピソードがあって、それを覚えておきたいなって今、私は感じている。それらがきっと、今の私のどこかの部分を作っている要素だと思うので。

「金」を書き上げたあとの蕎麦はいい具合に冷めていて、でも少しのびてしまっていて、残念だった。あ、手は美しく洗ってから突っ込んでましたのであしからず。

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