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僕と彼女のある日の朝


「いい天気だから外に行こうよ!」


「んー」


僕はけだるい声で返事をして、ふとんから顔を出す。
カーテンから差し込む光がまぶしくて、思わず顔をしかめる。
昨日から泊まりに来ている彼女はすでに準備万端で僕を起こしにきた。


ここのところ何をするのにも億劫で、動き出すまでにとてつもなく時間がかかる。ふとんから出る、着替えをする、歯を磨くこと…何にしてもそうだった。
以前までスムーズにできていたものができないというのは割とストレスになるらしい。僕はいつの間にか家から出ることができなくなっていた。


「いい天気だよー」


彼女は明るい声で言う。とても、楽しそうに。そんな彼女の声につられながら、重い体を起こして、もぞもぞと着替えをする。着替えをするのも割と重労働だ。
めんどくさいと思いながら、「動かなければ」という気持ちはまだあるらしい。気持ちがあっても体が動いてくれるかどうかは別だ。


なんとか準備を済ませたが、頭はまだ冴えないまま。半ば彼女に引っ張られるようにぼんやり歩きつつ、ドアを開けた。


その瞬間、一面に青が飛び込んできた 


見渡す限りの、青
今日は雲ひとつない青空だった


空が広い
空が青い


そう感じるだけで、
なんとなく、生きているよう気がした。


「いい、天気だね」


気づいたら、口からこぼれていたその言葉に、彼女は「そうでしょう」と言わんばかりの笑顔をこちらに向けている。



青空が久しぶりだったとかずっと雨だったとか今日が何か特別な日だった訳ではない。でも、なぜか空の青さに心を動かされている僕がいた。ずっと抱えていた鬱屈とした気持ちがほんの少しだけ消えているのを感じていた。


「お昼ご飯何食べよっか!」 
相変わらず彼女はマイペースだ。そんな彼女を後ろから眺めつつ、外に出るきっかけを作ってくれたことに「ありがとう」と呟いた。ただ彼女の思い通りになるのがちょっと悔しかったから、心の中で、そっと。


空が青い
悩んでいることがちっぽけに思えて、
それだけでなんとなく、少し歩いていけそうな気がした。
ゆっくり、ゆっくり 僕たちは二人で歩いた。

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