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プレイスブランディング

地域ブランディングの重要性が叫ばれている中、ブランディングの基礎を学ぶために手に取りました。この本を通して、沿線開発をしていくときにエリアごとの歴史や文化、人の特徴を把握した上で取り組むことがいかに重要か、なぜ重要なのか、どう取り組んでいけばいいのかの概要を掴むことができました。

今回の課題図書(プレイス・ブランディング. 電通)

なぜプレイス論が必要なのか(背景)

ITの発展により人々は様々な情報に触れるようになり情報過多社会になった。また移動コストの減少により人が自由に様々な場所を移動できるようになった。そのおかげで私たちは世界や日本のあちこちを旅行することができる。また、都市集中により場所の画一化(没場所性)が進み個性的な街を人々が求めるようになった。人口減少社会の中、これからは交流人口ありきのまちづくりが求められ、プレイス論の重要性は日に日に増している。

プレイスとは

人文地理学の分野では「人間の具体的な関わりを通じて、周囲の空間や環境や分節された特定の人間集団にとって特別な意味を帯びた部分空間」と定義づけている。地域が「行政単位で区分された固定的な概念」であるのに対し、プレイス(場所)は「当事者の観念として生じる主観的な意味づけでありながらも共同主観的なもの」であると強調している。
例えば、ポートランドのような「若者が自分の思いを形にしている街」というテーマ性をもち、クラフトムーブメント、ローカルフーディムーブメントなどのアイデンティティがあり、絶えずコンテンツが醸成されていくようなまちである。
また、人文主義地理学者が好んで使う表現の一つに「空間(スペース)」から「場所(プレイス)」へという言い方がある。物理的空間に活動や人との関わりが蓄積されることで自分達にとって意味のある空間へと変遷していくのだという。

プレイスの性質

・主観的でありつつも、共同主観的な意味(アクター同士の意味のつながり)を持つ。(意味づけ、意味のつながり)
・多様なアイデンティティを持つ。(コンテンツ)
・プロセスであり、常に動態的に再構成されている。(アクター、コンテンツ)
・オープンであり、関わるアクターが変化していく。(関わるアクター)
・多様な主体の交わりの場であること。(アクターの交わり)
・多様な物語が集合し、出会い、その諸軌跡の配置や結びつきを形成する出来事である。

プレイスブランディングとは

本書では「分節された意味の空間であるプレイスが多様な人々に、高い密度で共有化されていること」だと定義づけている。

P.50_プレイス・ブランディング・サイクル

Location(立地)とはまだ意味が明確になっていない物理的な空間である。我が沿線の多くのまちはこの状態であると思える。
Sense of placeはその場所に対してどういう意味付けをしていくかを考えるときに起点となる「場所に対する感覚」を示す。
立地とセンスオブプレイスは表裏一体の関係であるが、立地という抽象的な空間に創造的な意味づけがなされた場合にプレイスへと育っていく。

交わりの類型(交わりの舞台)
 1. ステークホルダー×共働(長年の密接で複雑な関係性)
 2. コミュニティ×共感(テーマ性を持ったクローズな集団)
 3. インディペンデント×共在(オープンで自走的)
 これらは段階的なものではなく、同時並行的に存在するもの。多様な交わりがうまく交差することでプレイスは豊かになっていく。つまり、別々の目的をもったアクターたちがバラバラに活動していたとしても、全体的には意味のつながりのある状態が豊かなプレイスではないか。そこには、緩やかなつながりが確かにある。

センスオブプレイスに刺激されたアクターたちの活動によって、さまざまなコンテンツが生まれていく。これらの中にはそこでしか体験できない固有のコンテンツが含まれるようになる。これらが絡み合うことによりプレイスのブランディング化が行われる。

プレイスブランディングのプロセス

P.243_プレイスブランディングによるディレクション

目的はマネジメントではなく、方向づけること、ディレクション。つまり「本質的価値や存在意義の定義づけをすることで目指すべき姿を明らかにし、ものごとを良い方向へ変化させること」である。

1.プレイスの単位の設定(中核市/地区/通り/路地/広域圏/街道/沿線領域)
瀬戸内、生活百景、ポートランド、南アルプス、
2.センスオブプレイスの探索(調査)
ex. 水の山、生活百景、Farm to table、DIY、サイクリング、レモン、アート、
3.交わりの舞台の設定(人脈の把握、出会いの誘発、既存の活動や計画の把握、外部アクターとの連携、組織の設立、オープンなメンバーの制度設計、行政の支援)
4.コンテンツの創出(モノ/コト/ヒト/景観/場)
5.発信活動(ロゴなどの視覚的デザインの開発)
6.KPIの設定(認知指標、アクターの参画数、コンテンツの創出数、地元市民の評価)

クリエイティブな人たちが堅実にビジネスを続けられるように、空間と知識を提供したり、農家とシェフのようなつながりをつくることがディレクターには求められる。

本の感想と私たちができること

場所の定義づけから始まり、プレイスとは何かを理解することで、社会状況から行政区分や表層的な地域特性からブランディングしても失敗する可能性が高まっていることがよく理解できた。マーケティングの重要性が問われていることからも地域や現象を解像度高く見ていくことがますます大事になる。
「プレイスはある空間において物語が出会い、それぞれ独自の時間軸を持つ諸軌跡の配置や結びつきを形成する出来事」というフレーズが印象的だったという意見もあった。これまでまちの現場で起こった現象を振り返ったりすることで、改めて多様な関係主体と共創していくことの重要性を理解した。

私たちの組織を振り返ると、社内でエリア戦略を考える動きがある中で、プレイスブランディングを形成する動きが取れていないのが現実であると思わざるをえない。7つの戦略は電車の流れで決めているし、秩父は正丸トンネルの先と手前で文化が異なるという意見も出た。今の戦略は行政単位でエリアを決めていて、地域の表層的な側面して見ていないように感じる。また、意味付けや個性的なコンセプトも明確に定められていない。

今後は選ばれるまち、惹かれるまちを創造するために、この団体でも個人でも沿線の地域をあらゆる側面から学び、センスオブプレイスを集めていきたいと思った。

参考文献
・プレイスブランディング. 電通abic project編
・プレイスブランディングとはなんぞや(https://dentsu-ho.com/articles/6050)

はるお

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