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読む一人芝居~2020年春、別世界の始まり!!編②~


第3場 
2020年2月中旬 ハルカの部屋

『グリム童話―少女と悪魔と風車小屋』の
興奮も冷めやらぬ中、
私には次の仕事が待っていた。
初めて、
“東京での!!”舞台に
立つことになっていたのである。

ハルカ:
「(台本を読みながら)へー!!
やっぱ東京すごいなー、

公演告知後のSNSでの情報の広がり方が
静岡と全然違う!
あと、共演者のみなさんが同年代!!」


私は、
観客としても俳優としての仕事にしても
ほとんど静岡が、SPACが拠点だった。
中学生の頃から、
ただなんとなく居やすかったっていう
理由でSPACの劇場に
毎週のように通って、
SPACが、(今の私のボスである)
宮城聰芸術総監督が演出したり、
海外から招聘してきた作品を観続けた。
SPACが
静岡県内の中高生向けに行なう
人材育成事業に参加したり、
ボランティアスタッフを
やったりもした。

そうこうしているうちに
SPACの俳優になっていた。


ハルカ:
「私の勝手なイメージだったけど
東京で演劇を創っている人って
勝手なイメージだけど、
なんかみんながギラギラしていて、
目立ちたがり屋で、
お客さんもなんだか
目をギラギラさせて
観ているような気がして怖い。
私なんかが大丈夫なのかな…。」


心配はあったけれど、
同時に楽しみでもあった。

なぜなら、
このときに一緒に作品を創るのは
比較的、自分と年代の
近い演出家さん&俳優さん
たちだったからだ。

SPACの俳優の中では、
私はほぼ最年少。

技術も経験も多い
ベテランの俳優さんたちに囲まれながら、
宮城さんやSPACにやってくる
国内外のベテランの
演出家さんと仕事をする。

周りと比べて自分がまだ
若手で技術も経験もマイナスな部分を
必死で補いながら仕事をする、
そんな感覚。

もちろん、

それはとても楽しくて
勉強になって幸せでたまらない。

しかし、
同時に、
「同年代の演劇人といっしょに
仕事をしてみたい。
考えていることを共有してみたい。」
と思うようになっていた。
そんな矢先にあった、

またとないチャンス!!

絶対に楽しみたい、

絶対にいい作品にしたい。

この機会を1つのチャンスとしたい!!


そんな思いでいっぱいであった。

第4場
2020年2月中旬
東京のとある稽古場。稽古初日

ハルカ:
「あの、ミヤギシマハルカと申します。
よろしくお願いします。
あのー、色々と初めてなんで
ご迷惑おかけすることと思いますが…
(云々)」

俳優たち:
「よろしくお願いしますー!」


そして稽古始まる。
かなり意気込んでいたくせに、
ウォーミングアップの段階から
ミスを連発!(笑)

台詞もあまり上手にできない。


演出家:
「はーい、今日はここまでにしますー!
  お疲れさまですー。次回は来週に。」

俳優たち:
「お疲れさまですー。」

演出家:
「なんか、
 この時期はインフルとか流行るし、
 新しいウイルス?
 も怖いのでみんな気をつけましょー!」

俳優たち:
「(口々に)そうですねー!!」


俳優には仕事のやり方、
演技のスタイル、
様々なタイプがいるけれど、
私は、どちらかというと

不器用なタイプ(だと自分で思っている。)

あんまりすんなりすぐに上手にはできない、
でも稽古や本番を重ねていく中で、
どんどんパワーアップさせていく。
稽古の最初は不器用ではあるけれど、
本番のパフォーマンスを最高なものにする、
そんな俳優でいたいと思ってる。
だから演劇の創作プロセスにおいて、
「稽古を重ねて本番を迎える」
ということは私にとってとても大切なんだ。

第5場
2020年2月下旬。静岡のハルカの自宅の部屋

ハルカ:
「(スマホを観ながら)え!?
 新型のウイルス?
 新型コロナウイルスって、

 そんなにヤバイの…?

 ライブハウスで集団感染?

 クラスター?

 あ、

 でも、

 そうか、

 未知の病ってことなのか。
 治療法が見つからないし、
 薬もないからそんなに恐れるのか…」

何事もない…

と思いたい、

というか、

そんなに大したことないはず…?

「正常性バイアス」
という言葉が頭の中を過ぎった。

そして、2020年2月26日。


政府から、
イベントなどの中止や規模縮小を
「要請」するという発表がなされる。

ハルカ:
「(再び、スマホを眺めながら)え、

 東京芸術劇場の公演中止?

 え、この劇団も?

 え、大丈夫なの?そんな…。」


びっくりするくらい
次々と入ってくる「中止」
の情報に驚くばかりだった。

演劇業界において、
一つ一つの公演には、
本当にたくさんの人が、
数か月、長くて数年単位で関わり、
上演が行なわれる。

企画、稽古、様々な試練を乗り越えて
数日~数週間の上演があり、
その上演期間によって、
それまでの過程が評価されていく。

チケット収入も入る。
この時期に本番がある人たちは
その最後の「上演」の機会が奪われたんだ。

え、その分のお金は?

どうするの

「神様のお恵みがありますよう。」
(←『グリム童話―少女と悪魔と風車小屋』の台詞)

演劇を勇気づける、俳優を勇気づける、
様々な言葉が頭の中で渦巻いた。
私たちの小さな日常が、
大きなものの力によって一瞬で奪われていく。
その感覚が怖かった。




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追記、写真の説明:
本文中では書かれていませんが、この時期に出演したパフォーマンス公演の写真。2020年2月23日。既に、コロナウイルスに関する報道が出ていた。お客さんはマスクの方が8割くらい。最初に「お客さんに順番に握手して回る」という演出にしようとしていたものを「順番に微笑みかけていく」と変えた。


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