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三浦春馬と私 その7

2016年7月21日、東京・初台の新国立劇場の前で、私はひとり、期待に胸を膨らませながら、この写真を撮っていました。


見に来た演目は言わずと知れたブロードウェイミュージカル「キンキー・ブーツ」の日本版。記念すべき初演初日に立ち会うことになった私は、ミュージカルといえば劇団四季でしか観たことがなく、予備知識はそうありませんでした。有名なミュージカルなのでキンキー・ブーツのストーリーと見所は知っていて、面白いと思いましたし、テレビでゲネプロの様子をちらっと見たので、三浦春馬さんがドラァグクイーン・ローラ役をやることも、そのビジュアルが話題になっていることも知ってはいました。


劇場に入ってすぐ、客席に演出を担当した岸谷五朗さんを発見して、テンションが上がったのもつかの間、幕が上がると小池徹平さん演じるチャーリーを中心として、ロンドンの街からお話がスタート。そっか最初は工場継ぐ気ないところから始まるのね・・・と思っていた矢先。


私は春馬ローラの登場に度肝を抜かれ、すっかり心を奪われてしまいました。そこにいたのは、三浦春馬さんではなく、ドラァグクイーン・ローラ以外の何者でもありませんでした。


美しい。頭の先から手の指先、つま先までも。非常に女性的な美しさを身にまとったドラァグクイーン・春馬ローラの圧倒的な存在感に、私は陶然としていました。


そもそも私はヒールの付いた靴が苦手で、5センチのヒール履いて歩けるかどうか怪しい人間ですが、春馬ローラは15センチはあろうかというピンヒールを履いて歌い・踊っていました。それだけでも彼が相当の努力を重ねたことがうかがい知れますが、驚いたのは何といっても歌です。


三浦春馬と私 その3で触れた「地獄のオルフェウス」で観た時とはレベルが違いました。格段に上手くなっていました。声の出し方も表現力も。まさにドラァグクイーン。ステージに生きる人。


今考えてみると、初演初日ですからキャストの皆さんはかなり緊張されていたことでしょう。しかしそんなことをまったく感じさせない堂々としたステージでした。「Land of Lola」も、チャーリーとローラが心通わせる「Not my father's son」も、ノリノリの「Everybody Say Yeah」も、圧巻の「Hold Me in Your Heart」も、何もかもがすばらしかった。会場にいた岸谷五朗さんも楽しげに踊っていました。後半盛り上がるにつれて会場全員、立って踊り始めました。


とにかく、全身をアドレナリンが駆け巡り、会場のほかの観客と一体となって作り上げたあの空間。未知の経験。わたし史上、はじめてのスタンディングオベーション。もう自分の頭がどうなってしまっているのか、興奮しすぎてわかりませんでした。


カーテンコールの際、春馬ローラは客席の岸谷五朗さんに手を振っていました。三浦春馬に戻っての、弾けんばかりの笑顔で。初日の観客の反応に手応えを感じたのでしょう。


この舞台を観て確信しました。三浦春馬さんを最も輝かせるステージは、テレビドラマでも映画でもなく、ミュージカルの舞台であることを。彼の持つ、天性の歌と踊りと演技の才能、圧倒的な舞台の上での存在感を極限まで磨き上げて挑むのにふさわしい、ブロードウェイという場があるじゃないか!と。


あれ以来、あの日の興奮と感動を超える舞台には、まだ出会っていません。


実は2019年の再演のチケットを持っていました。持っていたのに、子どもの世話で忙しかったので行かなかったのです。こんな未来を知っていたら、無理にでも都合をつけて行って、進化した春馬ローラに会って元気をもらってきたことでしょう。再再演があると信じて疑いませんでした。行かない決断をしたあの日の私に言いたい。なにがなんでも行け。とにかく行け。春馬ローラに会えなくなってもいいのか、と。


いつだって、後悔した時にはもう遅い。だから後悔しないように普段から行動しなければ。わかっていたはずなのに、わかっていなかったのです。


YouTubeで他国の方が演じるローラを拝見したことがありますが、あれほど女性的で美しく、歌の上手いローラは他にいません。もっと男性的なローラであったり、歌声が少し単調であったり。そのあたりは好みの問題もあると思いますが、私は三浦春馬さんの演じるローラは女性的な美しさ、歌声の使い分け(もちろん声量も)、役者としての表現力が合わさった完成度のかなり高いローラであり、世界一だと思っています。


もう、あのローラに会うことは出来ないという事実が、本当に悲しくて悔しくてたまりません。

これが、いままで観た舞台の中でわたし的ベストアクトです。春馬ローラは今も、記憶の中で私に勇気をくれる存在であり続けています。


この公演を超える存在にいつかどこかで出会えるかもしれない、いや生涯出会えないのではないかと背中合わせの思いを抱えながら、今日も私はチケットぴあから送られてくるメールを見て、公演を探し続けています。



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