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俳優・高橋一生が魅せる「変わり者」役の妙

勝手に一人でやっていた、女優・蒼井優まつり。
締めくくりとして、『リリィ・シュシュのすべて』を観た。

何故締めくくりにこの作品を選んだのか?なんとなくだ。けれど、一通り作品を観てみて、その人のキャリアの原点に返ることで、核になるような部分に触れたくなったのかもしれない、と今は思っている。

市原隼人さんがあまりに細くて、びっくりしながら観ていたらどこかで見覚えのあるお顔が。敬愛する高橋一生さんではないですか。

若い。いや、というより、なんだか平凡だ。

20年前の作品なので、19歳か20歳ぐらいか。最近演じることの多い、内面の複雑な役柄からは想像できない、屈託のない笑顔。学校の人気者で、下級生からの信頼も厚い役だからだろう。

おモテになる剣道部の先輩役で、映画の前半でさわやかな笑顔を振りまくだけ振りまいて、いなくなった。特に印象はなかった。いや、岩井俊二作品に出演できるだけでも、すごいことなのかもしれないけれど。

画面の外に漏れ出てくる存在感が、今とは全然違う。たくさん、色んな場でのお芝居を経験したからこそ、現在があるのだなと妙に納得した。

三浦春馬さんについてはさんざん魅力を語っている。なのに、同じく「敬愛する」と言っておきながら、高橋一生さんについて語らないのは不公平というものだろう。ということで、一生さんの主演舞台・野田地図『フェイクスピア』の幕がもうすぐ上がることを記念して、愛する高橋一生さんの演じた役について、語ろうと思う。

それにしても20年前に中学の先輩後輩で共演していた二人が、のちに大河ドラマ『おんな城主 直虎』で政次と傑山さんとして再会するとは・・・当時の2人のビジュアルからは想像できなかった。

■ 出会い 浅井長政 (信長協奏曲)

いろんな番組で、観たことがある顔だと記憶していた。多分、『Woman』で。多分、『浪花少年探偵団 』で。多分、『ラストホープ』で。

その人は、突然現れて私に強烈な印象を残していった。

小栗旬さんが当時好きで、彼のドラマが始まるというので楽しみに観ていた『信長協奏曲』。5話目あたりで、小栗さんが演じる信長の妹、お市の方(水原希子さん)と結婚する浅井長政が登場する。

優しそうな物腰。戦国の世での政略結婚だというのに、妻への愛おしさが溢れる眼差し。信長と酒を酌み交わす時の、「兄として慕っている」という絶妙な表情。そして、艶のある声。

たった1話か2話しか出ていないのに、私の心の奥底に深く入り込み、その人は物語から去っていった。

彼は出ていないが、映画『信長協奏曲』へのリンクを貼っておく


■ 再会 貝原茂平(民王)

ドラマ『民王』は、内閣総理大臣を務める父・武藤泰山(遠藤憲一さん)とバカでナヨナヨしているがことのほか優しい息子・翔(菅田将暉さん)が入れ替わるコメディだ。ちなみに余談だが、このドラマの泰山と入れ替わった翔は、菅田将暉さんの真骨頂だと思っている。とても彼らしい。

入れ替わった後のエンケンさんのお芝居が本当に面白くて、毎回ゲラゲラ笑っていた。高橋一生さんとの再会は、武藤泰山の秘書・貝原茂平としてだったということになる。

貝原さんは、秘書としてとても優秀。時間に正確。ときどき切れ気味に入れるサラリとしたツッコミ、「ホテン!」(補填をホチンと読み間違った泰山さん:中身は翔に対して)や「変態じゃないか!」(週刊誌にすっぱ抜かれた官房長官狩屋さんの赤ちゃんプレイ記事に対して)がもう最高である。

寝るときはメトロノームをかけるところも、女性に対する扱いに慣れていないところも、毒舌なところも、基本的にわずかに怒気をはらむ以外はあまり表情が変わらないところも、もう何もかもが愛おしい。

というわけで、当然スピンオフブックも買った。

そして、当たり前にスピンオフドラマも観た。火星から来た男・野間口徹さんの回を思い出して、いつも笑ってしまう。


■ 偏愛 家森諭高(カルテット)

『Woman』『モザイクジャパン』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』などの作品で高橋一生さんを起用してきた、脚本家の坂元裕二さんが名優4人を集めて好き放題したドラマ。それが、『カルテット』である。

「好き放題」と断言しているのは、ユリイカ2021年2月号の坂元裕二特集を読んで、当初の計画と全然違う企画になっていることを知ったからだ。
結局、この4人なら何でもできるよね?ということで色々変わったらしい。しかし、それでも本当にきっちり仕上げるところが、プロの俳優さんの凄いところだと思う。

物語は巻真紀(松たか子さん)、世吹すずめ(満島ひかりさん)、別府司(松田龍平さん)、家森諭高(高橋一生さん)が集まって、弦楽四重奏を組んで活動を始めようとするところから始まる。舞台は冬の軽井沢である。

この4人の化学反応がとにかく面白くて、何度観ても最高なドラマだ。

そして高橋一生さんの演じる家森は、たいへん、たいっへん面倒くさい男である。

まず第1回。共同生活を始める4人が大皿いっぱいのから揚げを作り、生のレモンを添え、いただきますをした瞬間、誰かが大皿に乗ったすべてのから揚げにレモンをばーーっと絞ってしまった。
家森さんはここで、なぜいきなり全部にレモンを絞ったのかを問いただし、普通だろうという別府さんとすずめちゃんに「人それぞれ」と落ち着いた声で、しかし確かに怒りながら言うのである。

曰く、レモンは不可逆なのだそうだ。
ドラマのセリフで、「ふかぎゃく」なんて久しぶりに聞いた気がする。

随所にこういうメンドクサイところを発揮する家森さんなのだが、元妻である茶馬子には弱かったり、好意を寄せるすずめに対しては優しかったり、結構可愛い奴なのである。

このドラマはエンディングも秀逸で、椎名林檎さんの作詞作曲による『おとなの掟』という曲を出演者4人で歌っている。メインボーカルは松たか子さんと満島ひかりさん、松田龍平さんと高橋一生さんはコーラスという構成になっているが、この曲、私はかなり好きだ。今もiPhoneの中の、よく聴くプレイリストの中に入っている。

『カルテット』の家森諭高は、高橋一生さんの演じた役の中では一生さんらしさを存分に活かした、分かりやすい当たり役と言えると思う。

■ 偏愛 我聞慎二(凪のお暇)

『凪のお暇』はコナリミサトさんの漫画が原作のドラマだ。我聞慎二は主人公・凪の恋人である(だった)。ある日会社で過呼吸を起こして倒れ、会社を辞めて郊外の立川へ引っ越す凪。

空気の美味しいところで凪が心の休暇を取るうち、さまざまな出会いがあって・・・というストーリーになっている。

この我聞慎二というのもかなりの面倒くさい奴だ。
はじめは違ったかもしれないが、付き合っていくうち凪の内面のが大好きになっているくせに、それを表に出さず、出さないだけではなく変なマウンティングを仕掛ける。立川までたびたび会いに行っては凪に高圧的に接し、拒絶されるたび立川駅前で号泣している。

いやあ、メンドクサイ。あり得ないほどメンドクサイ。

なぜそんな面倒くさい性格になったのかは、ストーリーが進むにしたがってだんだん明らかになっていくのだが・・・まだ観ていない方もいるかもしれないので、書かずにおく。

『凪のお暇』の慎二は、『カルテット』の家森さん、『東京独身男子』の石橋太郎などと同系統の、面倒くさい男に分類できると思う。3人とも全然性格は違うのだけれど。

駅前で、大の男がしゃくり上げながら号泣する姿に、思わず画面のこちら側から「大丈夫?」と声をかけてしまいそうになる。それほど、彼の泣く姿は回を重ねるごとに愛おしくなっていくのだ。

慎二は、少しずつ凪への理解を素直に示し、だんだん優しくなっていくところが、とても好きだ。ぜひ、そのまま優しくいる慎二を、後日談として見せてもらいたい。

■ 溺愛 小野但馬守政次(おんな城主 直虎)

すでに、『おんな城主 直虎』の小野但馬守政次については17,000字を使って愛を語っているので、ほぼそちらに譲りたい。

それでもこの場で政次の好きなところをごく簡単に語るとすれば
・井伊を、直虎を守るためには自分の首をも差し出すところ
・自分の真の思いは辞世でしか語らないところ
・敵のふりをしながら、しっかり直虎を助けるところ
・周りを良く見て気を遣いすぎるところ
・子ども思いで優しいところ
となる。

小野但馬守政次は、今のところ高橋一生さんが演じた役の中で、一番好きな役だ。どれだけ文章を綴り続けても、語りつくせそうにないほどの魅力にあふれている。

頭が良くて、優しくて、一途で、不器用で、自分より他人を優先する人で・・・やはりどれだけ言葉を重ねても、政次の魅力を伝え切るのは難しい。

■ 真骨頂 岸辺露伴(岸辺露伴は動かない)

2020年の年末、NHKで放送された『岸辺露伴は動かない』は、人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品を実写化したものだ。

NHKがかなり本気を出して制作したドラマのようで、セットや役者の衣装の凝りようが半端ではなかった。おまけに、原作者である荒木飛呂彦先生のインタビューまで取ってきて事前に特集として放送している。

全3話だが、第2話『くしゃがら』が特に秀逸。高橋一生さんと森山未來さんの掛け合いが素晴らしいので、観ることが出来る環境の方はぜひ。視聴時の私の感想は以下noteに書いてある。

終わりに

高橋一生さんが、あの岩井俊二監督の作品『リリィ・シュシュのすべて』に出て瑞々しい演技を披露していたころは、「面倒くさい男を演じさせたら多分世界一上手い」俳優になるとは、誰も想像できなかったのではないだろうか。20年間、俳優として積み上げるべきものをコツコツと積み上げてきた結果なのだろう。

本当はまだまだ「好き」と言いたい役がある。『スパイの妻』の福原優作、『blank13』の松田コウジ、『億男』の九十九、『わたしに運命の恋なんてありえないって思ってた』の黒川壮一郎、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の佐引さん、『から騒ぎ』のビアトリス。全部について語っているときりがないので、いつかまた、続きを書くことにしたい。

そして、今日のnoteの中で触れた好きな役は、意識的に「映画」や「舞台」のものを避けた。誰にでも気楽に、楽しく観られる作品を中心に、私が好きな役と理由をセットにして語ったつもりである。

2021年5月21日現在、昨年から続くコロナ禍は全く収まる気配を見せない。3度目の緊急事態宣言下である今、高橋一生さんの主演舞台『フェイクスピア』の幕が上がってくれることに心から感謝したい。

どんどん進化する高橋一生さんのお芝居を、舞台で鑑賞できる幸せを感じる。加えて、高橋一生さんのこれからを見守っていけることも、嬉しくてたまらない。これからを見守れなくなる悲しみを、私は痛いほど知っているから。

同じ時代を生きてくれて、俳優という職業を選んでくれて本当に感謝している。いつかご本人に伝わるように、愛を込めてここに書き続けようと思う。

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