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手紙は下準備から

文具店に行くと、つい便箋売り場に寄ってしまう。B5サイズの便箋に一筆箋。彩りが華やかでつい、頬が緩む。しばらく眺めるだけで時間を忘れてしまう。

これから手紙を送る相手の顔を思い浮かべる。何が好きだったっけ。季節感もあった方がいいな。そうだ。封筒はどれにしよう。シールは?受け取って、笑顔になりそうな封筒はどれだろう。あれこれ悩んでいると、左手の中に便箋と封筒がいくつも。ちょっと買いすぎかな。もう一度考え直し、二つをセレクトする。ちょっとしたお礼用に一筆箋も。レジに並んで、支払いをする間もちょっとワクワクしてしまう。

家に帰ると、今度は書く道具をどれにしようか悩む。気分にふさわしいペンの太さ、気分にふさわしい色のインク。流れるように滑ってくれる万年筆が好き。手元にあるものなら、どれも書き心地は滑らか。頭の中の言葉がそのままダイレクトに、紙に乗ってくれる感じがする。

書くのは、浮かんだ言葉そのまま。吟味することも推敲することもないナマの言葉たちが、便箋の上に自分の字で形になる瞬間、いつも不思議な気持ちになる。自分とは別の、新しい命を吹き込まれたなにかが生まれた感じがする。

書き終えたあと読み返してみる。大したことはひとつも書かれていない。あの感覚はどこへ行ってしまったのだろう。もしかしたら便箋と封筒と万年筆のアンサンブルがくれた、まぼろしだったのかもしれない。

こころをまっすぐ届けるのに、わたしがいちばん大切にしているもの。それは道具選び。


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