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大切ないちにち

2024年4月26日、わたしは50歳になった。

誕生日プレゼントに夫から仕事用のリュックをもらう。パソコンを持ち歩くことが多くなって、重くなった荷物と反比例する体力を考えてくれたのだろう。使い始めてみると背負っている間は楽だが、リュックのポケットに入れたSuicaや携帯や社員証を取り出すのが面倒くさい。ま、そのうち慣れるだろう。

せっかくの節目の誕生日。1日楽しく過ごそうと決めていた。有休を1日足して、一足早いゴールデンウィーク突入。日生劇場でミュージカル『王様と私』を観ることはだいぶ前から決めていた。夕方には息子が帰宅するという。塾へ行く前に夕食にしなくては。

よし。映画を1本観てからランチして、日生劇場。
その後自分への誕生日プレゼントとケーキを買って、帰宅するとしよう。

1日の予定が決まった。まずは家族全員送り出した後に映画を予約する。日生劇場の近くにはたくさんの映画館。観たい作品が何かあるはずだと検索。『あまろっく』。開演に間に合わない。『無名』。惜しい。5月3日公開だ。色々検索して日比谷のシネマシャンテで上映中の『プリシラ』を観ることに。

日比谷シネマシャンテのポスター

14歳のプリシラがエルヴィス・プレスリーと出会い、恋に落ちて結婚。心がすれ違いやがて離れていくまでを描く。プリシラ役のケイリー・スピーニーさんが繊細かつ大胆にプリシラを演じていて、他の作品も観たくなる。

ランチはシャンテの地下の中華屋さんで日替わり定食をいただく。日比谷でランチ1,200円は良心的。美味しかった。にんにくの芽と牛肉の細切り炒めが熱々で口の中をやけどしそうになる。日比谷の劇場へ行くときのランチは決まりか。

熱々のうちにいただきます!

食べ終えると急いで日生劇場へ。今年になってから10回は来ている。『王様と私』を観るのは4回目。

古典名作を新演出で

『王様と私』は世界中で愛される古典的ミュージカルで、日本では1965年に初演を迎えている。1860年代のシャム(現:タイ)が舞台。欧米列強の植民地化の脅威が迫る中、シャム国王はイギリス人家庭教師アンナを自国に招き、近代化を進めようとする。異なる価値観をぶつけ合いながら、お互いを理解していくお話。

ちなみに劇中、王様とアンナが踊る名シーンで使われる曲「Shall we dance?」は周防正幸監督の映画でも有名。

2024年版の王様はミュージカル初挑戦の北村一輝さん。アンナは元宝塚花組トップスターの明日海りおさん。北村一輝さん演じるシャム国王は、プライドが高く、聡明で、とてもチャーミング。明日海りおさん演じるアンナは頑固で、愛情深くて、キュート。二人の掛け合いと、子どもたちのかわいらしさと、滂沱のラストシーンだけで来たかいがあるというもの。舞台は一期一会。一回一回の公演で観られるお芝居がすべて違う。おそらく演じている役者さんの内面も一回一回違う。何度も観たくなる作品に出会える奇跡を、今年はもう2度も経験させてもらった。これだから劇場に足を運ぶのは止められない。

買い物の時間を考えると、どこかでお茶をしている時間はなさそうだ。急いで帰って、ポール・スミスへ。

コラボボールペンと名刺入れ

昨年末に、代官山蔦屋書店文具フロアの公式アカウントがポストしたカランダッシュ + ポール・スミス エディション4のボールペンのカラーリングがあまりに素敵で、ずっと忘れられずにいた。いつか欲しいと思っていた。

今はパソコンのキーボードから打ち込んでいるが、ほぼ毎日(仕事が忙しいときは2-3日に1回)、紙のノートにそれなりのボリュームの文章を書いている。きちんと仕立てあげて公開することが目的の打ち込んだものとは違い、頭に思い浮かんだことをとにかく書いているだけ。思考を中断されたくないので、普段は滑るように書ける万年筆を使っている。ボールペンも滑るように書けるものが好きだ。このカランダッシュとポール・スミスのコラボ商品の書き味を確認しなくてはならない。店員さんに申し出て、メモ用紙をお借りすることに。

よく滑る。しかも、持った時の重さもイイ。予想していたよりずっと。
50歳。節目の誕生日。思い切って買うことにした。一目惚れのウサギマーク入り名刺入れも。

いい買い物ができて満足。あとはケーキを買って家に帰ったら、ほぼ普段の生活。急いで帰ってみるとすでに息子はソファーに寝そべってゲーム中。ケーキを冷蔵庫にしまい、洗濯物を取り込み、お風呂を入れ、夕食の支度。何とか塾の前までに食事を間に合わせる。

20代の頃、結婚して子どもが生まれるところで自分の「オトナ」は止まっていた。想像の中の自分は、「オトナ」になった後もう病院のベッドでいまわの際にいた。孫に囲まれて春の陽だまりの中、眠るように死んでいく。平凡な人生の終わり。40歳や50歳のわたしがいるなんて、頭になかった。

だが、いきなり老境に差しかかるわけではない。一日一日の積み重ねが、明日のわたしを作る。今日のわたしはあっという間に彼方に去る。陽だまりの中で死ねるかどうかなんて分からないし、そもそも後期高齢者になるまで生きられるかどうかも分からない。

一つだけ確かなのは、今日を、この瞬間を懸命に過ごして全力で楽しむことが明日や、明後日や、1年後や、5年後につながっていくということだけ。

50歳の誕生日の翌日、家族の大好きなから揚げをたくさん揚げた。綺麗になくなった。普段と変わらぬ日もまた、明日を作る今日であることに変わりはない。

記念日も、そうでない日も。
わたしの未来につながる、大切ないちにち。

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