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枝垂桜の思い出

2010年の春、3月26日は金曜日で、引っ越しの荷物を送り出し、夕方には部屋の引き渡しをすませた。最寄駅の淡路から、勤めをしていた頃と同じように堺筋線に乗り、日本橋で降りて、そこから歩いて應典院まで行った。特別な気持ちだった。
應典院では、その日まで7ヶ月欠かさず参加した大阪スタタリング・プロジェクトの例会にいつも通り参加した。その夜は、「吃音についてみんなで語ろう」といったゆるい会だった。
軽い打ち上げまで参加して、深夜の高速バスに乗るため梅田に移動した。ふたり、見送りにきてくれた。そのふたりには、なんというか、特別な思いを抱いた。
バスに揺られ、うとうとしていたら、やがて土曜の朝になり、新宿駅の西口に降りた。
早朝の、乗客の少ない京王線に乗って、府中駅に降りた。曇り空の、薄暗い朝に包まれていた。生活の荷物を乗せたトラックが到着するまでにかなり時間があった。
並木道を歩いて大國魂神社をはじめて参拝した。入口の門が工事中で、ホワイトシートに覆われていた。門の脇から入ると、可憐な枝垂桜が、ひっそりと、控え目にたたずんでいるのが目に入ってきた。
いま、大國魂神社で見ることができる枝垂桜は、あのときのような顔をしていなくて、やけに堂々としている。あの枝垂桜は、あの朝、あの朝のぼくだったから出会えたんだろう。たまに、思い出す。

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