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Touch me not 【FINAL FANTASY10二次創作小説】

ファンフィクションノベル、二次創作小説です。初出は2000頃、お付き合いしていたブロガーさま(絵と文章を書いていた当時大学生)への贈呈作です。二次創作という分野に抵抗がなければ、よろしければお付き合いくださいませ。主要人物はアーロンとルールー、最後にその他のメンバーが登場します。

なお、この小品は作者独自の創作であり、原作とはいささかの関わりもないことをここに明記いたします。




水の匂いが変わった。

「虹の滝」が作る水の幕が、湿気を帯びた大気に溶けてゆく。夜陰の風に揺れる赤衣の裾と襟元が、肌を軽く、そして幾度も打つ。雨が来るのが思ったより早いのかもしれない。

木橋を渡る足下で板がきしみ、音を立てる。駆ける足が立てる軽やかな音は、二度とこの足からは聞こえない。その欠落を埋めるように、肌だけが敏感になってゆく。

肌で読んだ気配など、何のあてにもならない。明日を恐れずに走り抜ける魂がないのなら、何も変わらない。

俺は ――
割り切れず、諦められなかった一瞬、答えのない問いを……。

Chapter1

「……よかった。ここにいらしたんですね」

衣擦れと真鍮のかんざしが擦れあう音が重なり、少しトーンの落ちた声色が聞こえた。

「……ああ。探していたのか」

“パン、パシッ”

かすかに、何かが弾ける音が聞こえた。その音に気を奪われ、一瞬反応が遅れる。頭上に影が差した。金と紅の翼が起こす疾風を体に受け、足下がふらつく。

「ぐっ!!」

「アーロンさん!!」

「……大丈夫だ。前を、見ろ!」

体制を立て直し、剣に気合いを込めて巨鳥に叩きつける。

「天の光に砕け散れ!!」

黒魔道士のいかずちが闇に轟いた。
 
 
 

「……手間をかけたな、ルールー。」

「いいえ、私こそ。ガルダは全部倒したものと思ってましたから。気の緩みがあったのかもしれません」

「それは俺も同じだ」

男の寡黙な口元がかすかに緩み、束ねた黒髪から下がる三つ編みが、女の端正な面差しと共に揺れた。

「柄にもなく気を取られてな」

アーロンの視線の下に鳳仙花が数本揺れている。ルールは身を屈め、その実にそっと触れた。乾いた音と共に実がはじけ、いくつもの種が地面に飛び散る。

ルールは立ち上がると、独り言のようにアーロンに訊ねた。

「鳳仙花の花言葉、知ってますか?」

「……いや」

「『わたしに触れないで』って言うんですね。私も、今朝教えたもらったばかりなんですけれど」

“触れないで、なんて言われたら、余計さわりたくなると思わないか?この文句を考えた奴、触れて欲しい!って言いたかったんだって、オレは思う”

「……あの子が考えてることは、ちょっと別、なんでしょうね」

「あいつもユウナに負けないくらい、分かりやすいからな。
 ……で、どうした?話したいことがあったんじゃないのか?」

「え?」

「……迷って、いるのか」

「……何も出来ない自分を、もう一度見るのが怖いのかもしれません」

「永く目標としてきたものが現実となったとき、人は誰でも迷うものだ。迷うのは弱さだ。しかし、迷うことのない者は、強者ではない」

二人の肩に水滴が落ちる。雨が降り始めた。

しなやかな指が、赤衣に隠された手へとそっと伸びる。戦うための構えを解いて、腕を袖に戻す。剣を握りなれた無骨な手のひらが白い指を一瞬包み、
そして、すぐに離れた。

 ―― この人の過去の痛みは、私の挫折と……

   ―― 重なるかも知れぬ。しかし、痛みを癒すだけの共感は……

今日の俺はしゃべり過ぎだな。そう思いつつ、アーロンは言葉を重ねた。

「過去を今に重ねず、今の無力と向き合え。無力な自分を見限るな」

「見限る……。」

「全てを見限ってしまうほど、お前は事をやり尽くしたのか?」 

ルールーの脳裏に、消せぬ残像が浮かび上がる。

無表情で憎悪の召喚を成した、かつてはギンネムと呼ばれた人の姿。大召喚士の祖の無惨な姿に、全ての希望を否定された聖ベベルの魔天。しかし、それは始まりですらなかった。

幻光虫が呼び覚ます亡き人の心。
“私の命など喜んで捧げます。だから「シン」を倒して……”

それを引き受けた少女の言葉。
「悲しくても、生きます!……まやかしの希望なんか、いらない」

その声たちに呼応し、踏み出した新たな歩み。それは未知の可能性と、いつ訪れるかしれぬ奈落を、両刃の形に抱えている。

頬のあたりを何かが横切った。
雨粒かと思ったそれは、緑色の光を宿らせ、ルールーの足下へ降りてかすかに震え、夜空へと昇り、闇の中に消えていった。

“怒るのも、迷うのも、優しいからだ。分かってるからさ。隠すなよ、ほんとのルーを” 

……なんにも分かってなかったくせに。きめ台詞だけは上手かったね、チャップ。

そうだね。弱虫の自分を抱えたままで、歩いていけばいい。歩いた分だけ、弱さがしなやかな強さに変わることを信じて。

そして戦いが終わり、終わりなきナギ節を得た時こそ、あらたな闘いが始まるのだ。
「スピラ」という死の螺旋を、次の命へのバトンに変えるための。

ルールの視線の先には、赤衣の背中が佇んでいる。

その時 ――
この人は私たちと共にいるのだろうか。

その思いをいったん飲み込んでから、水滴が伝う頬に微笑みを浮かべ、ルールは言葉を継いだ。

「生きている者は、死者と命を換えることはできない。だから最期まで生きる。それだけが、私たちに出来ることなのですね。 ……私、もう戻りますけれど。アーロンさんは?」

「すぐに行く。明日は早いからな」

静かな足音が遠くなっていくのを聞いてから、足下の小さな種を一粒拾って、アーロンは歩き出す。

雨足が早くなった。今夜中は止まないだろう。
 
 

Chapter.2

シンとの最後の戦いに向かう朝。装備を調える旅の最後にと選んだ地。
ビサイドの浜に、ユウナとガード一同が集合した。その目前にシド率いる飛空艇が待ち受ける。

「さあ、行くわよ。ワッカ、準備はいい?」

「……お、おお。何だか今朝は威勢いいなぁ」

ぴんと張った背中をこちら向けたままのルールー。その声に叱咤され、少し慌てたワッカが走る。

その姿を見取ってから、アーロンはティーダの横へと進んだ。

「決着をつける時が来たな。最後まで眼をそらすな」

「ああ!……って、何だよ、これ?」

アーロンが載せた鳳仙花の種が一粒、ティーダの手のひらにあった。

「いいから、先に行け」

「おっさん、訳わかんねぇよ、相変わらず」

「あれ~、これって、ほうせんかの種じゃん。アーロンが持ってきたの?似合わないことして~!」

身を乗り出してのぞいたのはリュック。アーロンの脇腹を軽く小突いてから足早に進む。

「ほうせんか?」
 ―― ああ、昨日ルールーと話したっけ。でも、何で、アーロンが?――

怪訝そうなのティーダの顔を、小首を傾げたユウナが見つめる。

「あのさ……。これ、預かってもいいかな?全部終わったら、寺院の横に蒔いてあげたいから」

「……そうだな。ああ、了解っす。ユウナに任せる。で、いいよな、アーロン!?」

アーロンに言葉をかけてから、ティーダはユウナの肩を軽く叩き、共に艇へと進んだ。

キマリがその後に続く。アーロンの横を通り過ぎ、一度振り返ってその瞳を見つめ、無言のままに踵を返す。

これは、お前たちの戦いだ。自分たちの足で駆け抜ける、その時代を切り開くための。
そして、俺は。終わらせるために闘う。時間切れの問いの答えを。

雨上がりのビサイド。
潮の香と共に草の緑が匂い、強く射し込む朝日の中で。最後に歩を進めるアーロンの背中は、いつもより濃い赤を湛えていた。


【fin】


二次創作は取扱に留意を必要とする分野です。コミケ等で広く認知はされていますが「黙認」されている、と私的に捉えています、以下、参考サイトを貼ります。


最後に、ヘッダー画像の全体図と対になるAI画像を上げておきます(BingAI使用、AI画像。これもFFとは全く関係がありません(イメージです)。



SF的世界観。夢のザナルカンドもこんな世界だったのでしょうか。

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