天の川
すれ違う人達は皆マスクで顔を覆い
その表情を読み取ることは出来ない
せっかくの春が今年もやってきたのに
桜は気がつけば散っていた
緊急事態宣言が発令された日はまさに
自分の誕生日の前日の出来事であった
彼女が出来て最初の誕生日なんて
楽しみに春を待っていたけれど
そんな上手く世の中いくはずもない
こんな時期にわざわざ県境を越えて
移動したなんてバレたら
それぞれの家族から
いろいろ怒られてしまうだろう
今回の新型肺炎の影響で
一緒に行こうしてたライブも
彼女が出場するはずだった大会もなくなった
彼女に告白した日に渡した
ディズニーのチケットも
しばらく使えそうにない
不定休な彼女は
わざわざ自分と予定を合わせるために
今月の土日に連休を作ってくれていた
「誕生日の近くで家に泊まりに行って
次の日にディズニーに行けたらな
って思ってたんだけど」
そう彼女から聞いた時には
すでにディズニーは閉園していた
今出来ることといえば電話くらい
本当の遠距離恋愛ってこうなんだよな
そう思いながら仕事終わりに電話をする
電話の途中でなんか
様子が違うなと思ったら
ビデオ通話に切り替わっていた
お互い寝巻きメガネのオフモードで
会話を続けた
「はい、誕生日おめでとう」
ビデオ通話の画面から目を離し
部屋にある時計を見ると
ちょうど0時を指していた
「会えなかったけど最初に祝えたからいいや」
これが今年の誕生日のお話
「写真撮りたい」
彼女はSNSに載せるための写真を撮った
「プレゼントもういっそのこと送っちゃうか
って悩んだけど手渡ししたいじゃん」
「賞味期限とかないなら今度のときで良いよ」
「じゃあそうする」
【不要不急な外出】って括りで会えないのは
気持ち的になんとも言えないけれど
それでお互いが感染して死んだら意味ないから
そう考えると今はこの状態がベターなんだよね
また普段の生活に戻った時は
あの川を渡ってまた会いに行きたい