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「中卒」というレッテルを剥がす

17歳の頃から働いている。生きる為に働いていた。やり甲斐だとか、仕事が楽しいだとか、そういう感覚はあまりなかった。働いてお給料をもらう。その度に、”あぁ、今月も生きていける”と思えた。

何度か転職をした。心身の不安定さが原因で、体調を崩して辞めざるを得ない状況だったこともある。就職先が明らかにブラック企業だったこともある。理由は様々だ。その度に私の頭を悩ますものがあった。「履歴書」だ。

履歴書には主に学歴と職歴を記載する。私の最終学歴は中卒だ。その時点で面接すら受けさせてもらえないことも多い。職安で求人検索をかけ、相談窓口に向かう。窓口の人に「あぁ、中卒なんですねぇ…」と言われたことも一度や二度ではなかった。高校を途中で辞めたのは私の意志だ。だから、仕方ない。何度もそう思おうとした。でも心の奥では、納得いかなかった。


普通の家庭に生まれていたら、私だって大学まで進学したかった。両親に虐待されていなければ、高校を辞めて家を飛び出したりなんてしなかった。


世の中は案外、結果が全てだ。どんな事情であろうとも、おそらく採用先の会社側からしたら私のバックグラウンドに一切興味はない。私が持っている武器は何か。何が得意で、どんな仕事なら任せられるのか。そこにしか注視しない。当然と言えば当然だ。会社は慈善事業ではない。悲惨な生い立ちだから、という理由で雇われることなんて有り得ない。

私には、武器がなかった。働きながら取ったヘルパー2級の資格だけが、唯一の武器だった。パソコンの知識もない。パソコン教室に通うお金なんてあるはずもない。ヘルパーの講習代でさえ、食費を削って何とか捻出したものだった。どうにか就職出来た先でも、学歴はどこまでも私を苛んだ。同じ労力で同じ仕事をしているのに、私と大卒の人とでは給料が10万円ほど違っていた。初めての職場の初任給は、手取りで9万円。月曜から土曜まで毎日8時間の肉体労働。その月給が9万円だ。アパート代と光熱費、携帯代を払ったら幾らも残らない。おかずも買えず、米だけを噛みしめる日が幾日も続いた。通信大学の資料を無料請求しては、学費欄を見てゴミ箱に放り投げた。それが、現実だった。


ここ最近の時代の流れもあり、昔ほど学歴に囚われない職場も少しづつ増えてきた。しかしまだまだ面接の条件が「高卒以上」である企業も多い。いっそ高校までを義務教育にしてくれよ、とよく思う。

私は親の虐待に耐えかねて高校を辞めた。家を出る為に。私の同級生にも何人か高校を中退した人がいる。

親が失業したから。親に借金があることが発覚したから。いじめが辛くて。受験ノイローゼで身体を壊して。ネグレクトに近い状態の家から逃げ出したくて。

”ただ、何となく”

そんな理由で高校を中退していた人なんて、私の周りには一人も居なかった。みんな「辞めざるを得ない」事情があった。その決断をしたのは確かに本人だ。だが、まだ10代の子どもにはどうにも変えられない現実というものがある。その現実の責任全てを本人だけに覆いかぶせて、「中卒だからお前は役立たずだ」と言わんばかりの社会の待遇を”仕方ない”で済ませるのは、あまりにも理不尽に感じる。


高学歴の人たちが苦労していないなどとは、微塵も思っていない。むしろ我が家は勉強の評価に異常に厳しい家だったから、私は高校を退学するまで毎日必死に勉強していた。小学生の頃から机にかじりついて、毎日毎日ひたすらにノートに英単語や数式を書き続けていた。あの努力を大学に進むまで、尚且つ在学中もやり抜く精神力と体力は、並大抵のことではないだろう。その努力の評価は、きちんと受けるべきだ。


ただ、学歴がない人が頑張っていないわけではない。何事も中途半端なわけでもない。

「中卒」というレッテルが、その人の評価に直結する企業が減ることを切に願う。バックグラウンドは別に注視してくれなくていい。ただ、その”ひと”を見てあげて欲しい。面接をするのなら、その人の持つ佇まいや発言。どんな目をしていて、どんな想いを持っているのか。得意分野は何なのか。そこを見て欲しい。採用したからには、仕事に対する評価に学歴を差し挟むことのないようにして欲しい。同じ仕事量をこなしているのなら、大卒だろうが中卒だろうが同じ対価を支払って欲しい。そう思うのは、そんなにもわがままな願いだろうか。


「はたらく」自由を手に入れる為には、まずは「はたらく」環境を手に入れなければならない。

人はみな、生まれてきた時点でたった一つの原石だ。どんな環境で育った人にも、平等にチャンスが与えられる社会であって欲しい。

「はたらきたい」のに「はたらけない」

過去に縛られて蹲る人が一人でも減って欲しい。変えられないものの責めを負い続けるのではなく、変えられる未来に目を向けられる人が増えて欲しい。

未来は変えられる。生きる為の選択肢は、自分で選び取ることが出来る。そう言い切れるような企業が、この先の未来を明るく照らす灯火になるのではないかと私は思っている。


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