見出し画像

【ショートストーリー】フォローしているんですよ

 川沿いの生える草にススキが目立つようになった。その光景は店内の大きなガラス越しから見えた。店内にも陽が差して、須磨田ルナは、眩しいと思った。
「いらっしゃいませ」アイビーのスリーピースのスーツを着た七三分けのツーブロックでパーマをかけた若い男性が対応した。
「株を現金化しにきました」ルナが言うと、
「分かりました。では、こちらの方にお掛けください」とその男性が席を案内した。
 その男性の少しかすれた声に特徴があった。この声って聞いたことがある。
 そうだ!最近人気急上昇のアイドルの声と似ているとルナは思った。そのアイドルがラジオに出演しているのを毎週聞いていたからなのかもしれない。
「こちらに住所とお電話番号とお名前を記入してくだい」とその男性がペンと用紙を渡して言った。
「この辺りにお住まいですか?」笑顔でその男性がルナに訊くと、
「名前を書きながら、まあ、えっと、はい」とルナは、あまりプライベートのことは知られたく無いので曖昧に答えた。
「僕もこの辺りに住んでいるんですよ。子供の頃から」笑顔のその男性はまるでアイドルのように爽やかだとルナは思った。
「あのー、もしかしてお兄さんっておられませんか?」その笑顔でルナに訊いた。
 プライベートをいちいち言いたくなかったが、その彼の爽やかさがルナの口を開かせた。
「います」
「おいくつですか?もしかして〇年生まれですか?」
「はい、私の三歳上なので、〇年生まれです」
「すいません、よろしければ下のお名前を教えていただけませんか」
「恭平です」
「やっぱりだ。珍しいお名前だし、高校が同じで3度ほど会ってます。共通の友達がマサトです」
「マサトくん知ってます。兄の親友です」
「でしょ。わー。僕ね、お兄さんのsnsフォローしているんですよ」

 兄は、一浪してまだ学生で大学院に通っている。兄の生きた年数に、また違った人生がここにいる。その男性の方が兄よりずいぶんと大人に見えた。

 そしてまたここにこようと思った。

#ショートストーリー
#文章

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?