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音楽ライブのこれからを眺めて -フジロックの延期を受けて-

ライブ会場は満員になってこそだった。たくさんの人が集まる景色はアーティストから見てもお客として見ても気持ちよくそれだけで価値のあるものだった。

その価値は、少なくともここ1年は変わることになる。新型コロナウイルスの特効薬が人々の手に行き渡るようになるまでなのか。もしくは、そうなる頃には社会全体の空気や慣習が変わってしまっていたとしたら、たくさんの人が密集する価値は最悪必然的になくなるのかもしれない。


密を避けることが価値とされる社会で、「音楽ライブ」はどんな形態をとることができるのか。それはものすごくドライに言えば「分断」であり、もう少し前向きに捉えたとすれば「選択肢を増やす」とも言えるかもしれない。

新型コロナの感染が拡大する以前に当たり前だったライブ会場には、大きく4種類の会場があって、一つは10-50人程度で満員になる小規模な会場(ライブバー、ライブスペース中心)。次に50-300人程度のキャパシティの中規模なライブハウス。そして、さらに大きな300-2000人程度を集めることができる大規模ライブハウス(ZEEP系列など)。さらにそれを超えたところに、ドームやスタジアムでのライブが開催されていた。また、これらのライブ会場(いわゆるライブハウス)とは別で会場となっていたのがFUJI ROCK FESTIVALに代表されるような野外フェス。

新型コロナの影響で規模の大小に関わらずすべてのライブハウスへの出入りがタブーとされた中で、野外フェスは密閉空間を避けた唯一の音楽会場であった。国内のいくつもの野外フェスの中止はすでに発表されていたが、8月の下旬に開催予定だったフジロックですら中止の判断をせざる終えなかった。このことは、世界中からアーティストや観客を集めることになるという規模の大きさはあれど、現場ライブの手段を大きく転換しなければ音楽ライブそのものが持続できなくなることを考えざるを得ない。


グローバルできない。密になれない。その中で、考えられるライブ文化持続の道は、よりドメスティックで疎な形での開催が挙げられる。その最たる例がオンライン配信ライブであり、開催不可とのぎりぎりのラインがリアルな会場でのライブ開催において室内の場合は国内や県内のアーティストと人数を絞った観客のみ、野外であればその程度はましになるかもしれないが基本的なポイントは変わらない。アーティストの知名度や集客規模によってその範囲はもちろん異なるが、規模に応じてより閉じた範囲の人たちで風通しの良い空間を目指すことが感染症拡大防止の社会では不可避になる。


改めて、密を避けることが価値とされる社会で、「音楽ライブ」はどんな形態をとることができるのか。


これまで通りの「現場ライブ」は音楽体験としては最高の価値をもつが、人数制限を負うことでそのまま経営を続けるほどに減っていく収益の減少をどうカバーするのかに課題が残る。チケットの値上げ、アーティストからのノルマやスポンサーからの調達資金を上げることで対応することが考えられるが、いずれにせよ会場側が身を犠牲にしない限りお金に余裕がある人だけが楽しめる場所にならざるを得ない。


また、「配信ライブ」については、現場ライブに比べると音楽的な満足感は得難いが、会場に行かないことにより、より手軽で身近にライブを楽しめる媒体になる。一方で音楽を発信する側からすると収益の減少が考えられるため、必然的に会場費を抑えに向かうことが考えられる。


そんな中また、第3の選択として、前述の折衷案である現場ライブ兼配信ライブも始まっている。
人数制限をしてこれまでのような音楽的な体験の機会と料金を保ちながら、そのライブを配信し、本来のライブチケットより安い価格で資金を募ることで、これまでと同じだけの収益を保ちながら観衆の音楽の機会を保つことができる。


この3つの方法は、各会場の運営方針やそこで働く人たちの気持ち、プライド、経済状況などに大きく左右され得るが、お客、音楽ライブの質、音楽に触れる機会の公平さ、収益など、何を大切にするかでその道は分かれると思う。

配信は便利なように見えて高い質のものを提供し続けないと長くはもたない。時間は有限だからたくさんの配信コンテンツが溢れれば溢れるほど、配信ライブの価値は下がっていくことになる。その中で中途半端な質の配信は視聴者数にも収益につながらず、ファンの気持ちも長くは続かない。

一方で、現場のライブの料金を上げるとなれば、ノルマを払ってライブに出るような形の出演者や観衆もこれまでのような回数でライブ会場に足を運ぶことが難しくなる人は所得に応じてでてくるだろう。

音楽業界、はたまた街のライブハウスには全国規模で取りまとめをするトップのような存在はいない。それでもこれまでの音楽ライブ会場との気持ちを繋ぎ止めるコミュニティが弱まる前に、手立てと方向性を明示しないとコアじゃない人から順に音楽ライブファンは減っていくだろう。


配信しかやる方法がないからとか、こんな大変なときだからなんていうネガティブな理由やお情けをねだるようなやり方は長くはもたないから、どの方法であっても、そのコンテンツを選ぶ良さを見つけて発信していきたいと思った。


そうやって未来に音楽を繋ぎたい。フジロック出演は今でも僕の夢です。あの苗場の会場いっぱいの人の前で演奏できる自分を何年後でもいいから実現させたい。こんな僕の夢を置いておいても、またあの場所が音楽と全ての人にとって自由で美しい空間になるように、目の前の音楽現場を魅力あるものにしていきたいです。


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