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【鵺の陰陽師】代葉編に学ぶ、主人公覚醒展開の秀逸な描き方


◆主人公覚醒展開

ボイコミ配信、センターカラーゲッツ、今週もトレンド入り、そしてなにより今週も最高だった毎週定期と、絶好調の『鵺の陰陽師』。待望のコミックス第1巻は10月4日(水)発売予定と大分先だが、楽しみに待とう。

第6話から始まった代葉編も今週で7話目になった。
現連載の半分がソレではあるが、全くダレることがないどころか、相変わらずめちゃくちゃテンポが良い。第1話からテンポと勢いが落ちないのがこの漫画の良いところのひとつだ。まあ、代葉編という長編でありながら様々な要素を兼ねているので数話ごとに分節できるのだが。
ゲーム対決やったりゼノブレイドやったり喫茶店デートでマーベラスだったりエッチマンだったり胸熱少年漫画やってたり…これもうわかんねえな。

そんな今週は大変胸熱な主人公覚醒展開が描かれた。

具体的に説明すると、

鵺さんの契約を目的とする代葉ちゃんとの勝負に備え、幻妖Lv2を軽々と倒せるほどの彼女に夜島くんが勝てるにはまず盡器の特性解放をこなさないとならない。だがそのノルマをこなしてもなかなか解放されないスランプに陥る。
その修行の中で、海での幻妖討伐バイトや学校帰りのラーメン等、同級生でありライバル関係でありながら徐々に距離を縮めていく夜島くんと代葉ちゃん。

ところが、ハゲ当主様は代葉ちゃんと視覚共有できるのでいちゃらぶを見せつけられたので逆鱗に触れたのか、彼女に罰を与え怪我を負わせられた姿を夜島くんは見てしまった。
勝たなければならない相手でありながら、任務を果たせなかった場合の代葉ちゃんの立場を重んじた夜島くんは「誰を守りたい」という己の意志を貫き、彼女を守れるだけの強さを求める。

その想いが呼び起こしたのかは分からないが、遂に特性解放の時が訪れた――――

ここまで読み続けてきた読者への多大なカタルシスだ。
しかもこれ、シリーズのまだ中盤(対決は恐らく次回)なのもすごい。そりゃあ主人公覚醒回は溜めに溜めた分、盛り上がるしかない。

今回の記事は主人公覚醒展開は如何にして盛り上がるのかを言語化・分析である。
あくまでぼく個人のアンオフィシャルな分析・解釈であるため、絶対これが正しいわけではない。マジに受け取らずにあくまで参考程度に捉えて頂きたい。分かりやすく例えるならばド素人が書くJ新世界漫画賞のコラム(新人賞募集のアドバイス的なヤツ)である。

代葉編は6話からだが、今回のテーマの範囲となるのは第9話(マーベラス回)から第12話(今週号)までなので、それを中心に解説していきたい。単行本なら今年12月ないし来年1月に発売されると思われる2巻に収録される。

◆キャラクター分析

第1話より

まずはここから触れなくてはならない。
主人公・夜島くんのスタンスは「臆病者ながらも人を守ること」である。幼少期に親父が幻妖から庇って殺された悲しい重い過去を持ち、第1話では幻妖が襲撃するも膳野くんに守ってもらえた。
ならば今度は俺が守る!!という、共感型主人公としては王道を往くつくりのキャラクター性となっている。勇気を振り絞る葛藤は第1話から描かれていて、素直に応援できる根はアツいキャラだ。

「人を守る」というスタンスはそう珍しくはない。シンプルだ。
代表例を挙げると『BLEACH』の主人公・黒崎一護がその名を冠するように分かりやすいキャラだ。思えば一護も幼少期に母親に虚から庇われた重い過去があった。
肝心なのは、「何故守りたいのか?」を徹底的に突き詰めることだ。それが納得できる形で描かれれば素直に応援できるキャラになっていくし、たとえシンプルなテーマであっても作品独自の色が見えてくる。

夜島くんはまさにその成功例に当てはまっている。

第11話より

そんな彼のブレない意思は、エッチマン事件簿(後編)の先週第11話でも忌憚なく披露された。
海で幻妖討伐争奪戦する中、Lv2の幻妖が二体も出現してきたので、たとえエッチマン呼ばわりしてきた辻田ちゃんたちでも助けに行く夜島くんの守りたい意思が強く表れた。この時点でもうカッコイイ。好きになるしかない。そりゃあ辻田ちゃんはデレるしかない。

まさか今週、早速これを上回る主人公覚醒カタルシスが訪れようとは…

「親父が殺された」というバックボーンを軸にしているので、夜島くんの誰も傷つかせたくない、守りたい、助けたいという意思に強く納得・共感させられるのだ。
今週後半、代葉ちゃんが藤野家に酷い目に遭わされたのを見てしまえば、そりゃあ傍島くんはとても黙っていられるはずがないだろう。「守りたい」に至る説得力がすげえすごい。ぼくだって代葉ちゃんを守りたい気持ちでいっぱいいっぱいだよ。

こんなふうになった人は多いはず

だからこそ「よう言うた!それでこそ主人公や!」とテンション余裕になれる。良い意味でお人好しで好感度高すぎる。すごくかっこいい。

◆ストレスから転化されたカタルシス

今週一番好きな代葉ちゃん

今週第12話の構成を整理すると、前半12ページは更に距離を縮めるのを兼ねた代葉ちゃんと夜島くんのギャルゲーパートだ。その中に、夜島くんが幻妖討伐しまくっても特性解放されないスランプに陥りつつも、距離感を縮めた結果、瞳に光が宿った代葉ちゃんに尊さを感じさせられる。

だが中盤より、上述通りハゲに罰を受けただけでなく、再び瞳に曇りが宿ってしまった代葉ちゃん。夜島くんもスランプ状態に変わりはない。

ここで捉えておきたいのはストレス要素だ。
夜島くんの修行は停滞気味だし、代葉ちゃんはショッキングな目に遭わされている(左目も負傷しているのがエグくて相当キツかった)し、ふたりともロクな目に遭っていない。楽しいギャルゲー展開から暗いシリアス展開へ一気に急落していったのもストレス要素と言えるかもしれない。
だがこのストレス期間は今回4ページのみに抑えている。

そして、夜島くんの「守りたい」という意思が引き金になったのか、特性解放に至ったわけだ。

ハッキリ言ってしまうと、覚醒展開とは精神論のようなものだ。
バトル漫画ではよくある奴だ。怒りや想いによる覚醒と言ってもいいかもしれない。匙加減はむつかしい。読者がノレる成功例もあれば、ご都合主義やなあなあで納得できないと批判される失敗例だって有り得る。

だが、今回の覚醒展開は余裕でテンションさせられた。
そも、今回戦闘中にではなく修行の過程だし、いずれにせよそのうち解放される約束された結末は控えていた。肝心なのは「あーはいはい覚醒知ってた」という怠惰な気持ちにさせるのではなく、「ここで来たか!!!」と一気にテンションさせてくれる、これ以上ないくらいの絶好のタイミングだ。
夜島くんの守らなきゃというスタンスが見られれば「ん?」「流れ変わったな」となり、久々に鵺さんが語り役として登場しつつこの覚醒展開で一気にストレスが吹き飛ぶほどのカタルシスが生まれたのだ。
勿論、ここに至るまでの丁寧な積み重ね(地道な修行、代葉ちゃんとの距離の縮め方)も兼ねて効果的である。

読んでてテンションしていたぼくのイメージ図

あと今回ぼくは「もういいだろ、覚醒してやってもいいだろ…!それで代葉ちゃんを守ってくれよ…!ホントマジ頼むよ…!なあ…!」という限界ギリギリな気持ちいっぱいいっぱいで読んでいたんだよね。我ながら感情移入しまくりだ。嫌でもするしかないだろう。
そこから覚醒で「ヤッターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」とテンションできたわけだ。読者の期待に応えてくれた、約束された結果だ。

代葉ちゃんの瞳に再び光が宿ったのもカタルシスがあった。
この瞳はぼくからすれば「夜島くんには勝たなければならないけれど、もしかすると私を守ってくれるのかもしれない」という期待を含ませているように見えたのだ。
次はいよいよ本命の代葉ちゃんとの対決だし、まだ藤野家問題は解決していないし、夜島くんの性格からして「藤乃家潰すゾ!!!」にはならないだろうが、夜島くんならなんとかしてくれる期待値がすげえすごい!

結論:ストレス要素はカタルシスに向けて溜めて、一気に解放させよう!

◆恩返しによるWin-Winの関係

これは覚醒とは直接関与しないが、それでも個人的には外せられないどころか過程としてとても大事であり、あったらいいなのプラスアルファの話である。

9話から12話まで描かれたふたりの距離を縮めていくエピソードは、元より鵺さんから提案された、代葉ちゃんに勝つために不可欠なきっかけ作りだった。対する代葉ちゃんも鵺さんと契約するため、ハゲから「鵺の真意を探りなさい」と命じられたので夜島くんと接近。思えばこの時点でWin-Winの関係は築かれていた。

マーベラス第9話よりマーベラスマーベラス

9話のカップル限定3000円券は夜島くんが男気を見せてくれたことでチュー+3000円使用可能になった。いつ見てもマーベラス。

第10話より

第10話ではエッチマン呼ばわりされたトラウマを克服させてもらった。

こうしてまとめてみると、夜島くんは代葉ちゃんに助けてもらったんだよな。ならば今度は恩返しとして自分から守ってやる側に至るのは納得の極みでしかない。
最初は鵺さんとの契約を賭けていたはずが、いつの間にかこんなエモすぎる尊い関係になってしまった。ぼくの中のノスタル爺がここ数週間ずっとうるせえ!!!!ポケモンスリープ無効化しやがるよ!!!!

因みにこれはベジータ系ツンデレライバルでも可能だ。
「勘違いするな。お前を倒すのは俺だ。赤の他人に殺されては困るからな」と主人公を認めてくれている側面があるやつな。ああいうのもエモいよな~。

挨拶を返してくれたり、今までメシを奢ってくれた分を自ら出してくれた積極性も押さえておきたい。ライバルだけでなく、異性の友達にもなってきている証拠だ。

◆守ってやりたくなれるヒロイン

最後に当たり前で大切なこと。
やっぱり読者からも守ってやりたくなる・助けてほしいと願いたくなるかわいい魅力的なヒロインであることはとても重要だ。人気漫画の条件として至極当然ではあるが、いつの時代も語り継がれなくてはならない。
代葉ちゃんはガチでASMR出してほしいくらい沼っているしブッ刺さりまくっている。

今週はかわいいところが多かったが、ウロウロ部屋を歩きながらWi-Fiを拾っていたのが小動物的なかわいさがあって好き。天然だ。愛しい。

「知らないギャルゲーのコミカライズ」という表現はネタではあるが、四月馬鹿でもいいからマジにギャルゲー化してくれたらマジのガチで嬉しい領域に達してしまった。出たら買いますよ。代葉ちゃんの描き下ろし店舗特典分を。まあ、ノベライズ化はされるかもしれない。

あとこんなかわいい子がハゲに傷つけられたのも素直に怒りを露わにできるからポイント高い。ぼくが漫画で正の意味で怒れるのはとても珍しいことなので、マジで評価しています。

***

以上。代葉編はまだ途中なのに衝動的に書いてしまった。
まだ先の話だが、川江先生なら絶対描いてくれるとぼくは強く信頼している。代葉ちゃんが素敵な笑顔を見せてくれる日を是非楽しみに待とう。

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