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【モノローグエッセイ】懺悔室のモノローグ

懺悔室


懺悔室に1人の人間が入っていく。

…神父様、告白に参りました…。私の話を、どうか聴いてください。(少し言い淀むが、意を決して)…昨日のニュースで、こんなものがあったのご存知ですか?20代の女性が自殺したニュース。放送では濁してましたけど、SNSでは職場でのいじめとハラスメントが原因だったって暴露されていて、ネットは炎上していました。ここ最近、そういう理由で自ら命を絶ってしまう方が多いですよね。ニュースでも相談窓口の紹介をよく見ます。そんなこともあってか、ネットではいじめやハラスメントについて言及する人が増えていて。これは大丈夫なのか?これを言ったらアウトなんじゃないかとか。…その中にこんなこと言ってる人がいたんです。

「私も過去に部下へ軽いセクハラをしてしまったことがある。今はそれをしてしまった自分を恥じている」

って。…私その投稿を見て無性に腹が立ちました。手が震えて、涙が止まらなくなりました。私、前職で、ハラスメント被害にあって、それが原因で仕事を辞めてるんです。精神科の先生には極度の不安障害と診断されました。その投稿を見て、なんか、私にハラスメントをしてきた人と重なっちゃって、トラウマがぐわっと広がりました。なんでこんなことが出来るんだろうって。もちろんね、その人が過去の行いを懺悔する姿勢は分からない訳ではありません。でも、でも、この人の懺悔って、狡くないですか?これで本当に部下へ懺悔をしているつもりなんでしょうか?それに「軽い」って何?、なんで自分の罪の重さを自分で決めることが出来るんでしょう?その「軽い」セクハラのせいで、仕事を辞めるしかなくて、どうしようもない不安に苛まれることが朝も昼も夜もある人がいるのが分からないんでしょうか。その投稿を見て、自分の心の中がドス黒く渦巻く感触を感じました。独りよがりの懺悔、救われるのは自分だけ、被害者なんてそっちのけ。自分のこと、被害者だって思うのもみじめで嫌です。でも……。…私、分からないんです。奴らにどう罪を償ってもらったら自分が満足するかも。告発も考えました。紹介して頂いた専門家の人とも相談して、いつでも訴えられる状態にはしています。でも…、しないままでいるんです。私が手を下そうが下すまいが、あいつがあいつ自身のせいで嫌われて苦しんで不幸になればいいのにとずっとずっと思ってました。でも、私、それでも満足しないかもしれない。果てがないんです、神父様。私が抱えるこの感情の終わりが…、終わらせ方が分からないんです。こんなこと思ってしまってごめんなさい、神父様。許すことが、できないんです。許す選択の出来ない私を懺悔させてください。

…そして…「許さないまま」でいる私をどうかお赦しください。許さないまま、私はこの胸の奥の新鮮な真っ赤な怒りを、活力にします。今の私にはこれしか!この気持ちに向き合う術が無いから!!他者に優しくするために、私の友人たちを守るために、何より私のような傷を負う人をもう増やさないために。この怒りをこれからを明るく生きていくための力にします!だから、神父様…いつか全てを許す日が来るまで(※)、許さないままでいる私をお赦しください。どうか…お力を与えてください。
長々と私の懺悔をお聴きくださり、ありがとうございました。

懺悔室から退室し、どこかへ消えてゆく。


※「いつか全てを許す日が来るまで」の部分について、演じ手が稽古過程で「全てを許す日が来ない」と判断された場合は、カット可。稽古で話し合ってください。


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