クリエイティブリーダーシップ特論:第11回 芦沢啓治氏

この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコースの授業である、クリエイティブリーダシップ特論の内容をまとめたものです。
 第11回(2020年7月27日)では、芦沢 啓治さんから「メイド・イン・ローカル(made in local)」についてお話を伺いました。

芦沢啓治氏について

 芦沢啓治さんは1973年生まれであり、1996年に横浜国立大学建築学科を卒業後、建築設計事務所architecture WORKSHOP、家具製作工房super robotを経て、2005年に芦沢啓治建築設計事務所を設立した。2011年、「地域のものづくりの場」として石巻工房を設立した。建築やインテリアだけに留まらず、家具やプロダクトのデザイン、工房運営、そしてプロトタイプ展01-04などの展示会デレクションなど、幅広く活動している。

石巻工房とは...

 石巻工房は東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市沿岸部の商店街で誕生した「地域のものづくりの場」(家具工房)である。芦沢さんをはじめとするデザイナー有志が補修道具や木材を提供し、復旧・復興のために、誰もが自由に使える公共的な施設としてスタートした工房である。芹沢さんによると、当初は地元でない人々の活動として、なかなか地元への浸透が進まなかったものの、地元の高校生との野外映画上映会のベンチ作成やバーのリノベーションなど、地道な活動を通じて浸透していった、とのことである。そして、国内外のメディアより注目されるようになり、2012年には「グッドデザイン賞」を受賞した。現在、復興のためだけでなく、デザインの力でDIYの可能性を広げる「DIYメーカー」として、また地元の人々が自立運営する小さな産業として国内外にて活動を広げている。

メイド・イン・ローカルへの展開...

 当初、石巻工房はボランティアとして活動を開始したものである。しかし、その活動を継続されるにはビジネス化する必要があった。その一つが石巻スツールのビジネス展開である。石巻スツールは、家具会社Hermanmillerが仮設住宅の住民や小学生たちと一緒に家具をつくるワークショップのために設計したものである。現在は、国内外にて家具作りのワークショップを開催しており、現地の素材を使用した石巻ブランドでのライセンスビジネスをロンドン、ベルリン、シンガポールなどにて展開している。「石巻ブランド」としての付加価値を活用し、現地製造した家具を販売して各地域が自立するための「メイド・イン・ローカル」を確立させたのである。
 芹沢さんによると、ビジネス化する際、ボランティアからビジネスへの変化に理解が得られない、製品を販売するためデザイナーとしての責任が増す、などの困難があったとのことである。また、「メイド・イン・ローカル」において重要な点として、地元の人々(デザイナー)と一緒に地元の素材でモノをつくり、活動の継続性を確保することが重要とのことである。

メイド・イン・ローカルの更なる発展...

 木製家具メーカー・カリモクと組んで「石巻工房 by Karimoku」を展開している。「メイド・イン・ローカル」として相通じる考えから始まった活動である。カリモクの製品には適しない材料でも、石巻工房の製品として活用することで、メイド・イン・ローカルの発展としてアップサイクルを実現したのである。

授業にて特に印象深いことは...

 芹沢さんによると、与えられた環境(条件)を活かしてモノを製作するという点において、建築と家具では共通するものがある、とのことである。制約を設けて生み出されたその地域特有のデザインが、様々な地域の特徴を生かし、素材を選ばないデザインとして発展し、国内に限らず世界に広がりを見せている点が非常に印象的であった。持続可能な未来において、さらにコロナという特殊な状況において、芹沢さんの「メイド・イン・ローカル」の存在価値が高まりつつあると思った。そこには、デザインだけではなく、身の回りの人から始まり、地域・社会、そして社会への思いやりの大切さを感じた。また、それを一時的な活動ではなく、継続的な活動として発展させることの重要さも学ぶことができた。
 授業の最後に、芹沢さんによると、「特殊な状況(否応なしに時間に余裕が生まれたとき)において、自分を見つめて何をするか、という契機も大切である。石巻工房を始めた契機も同様であった。」とのことであった。モノをつくるだけではなく、自分自身においても、与えられた環境を活かして先に進む大切さを実感した。私もいまの環境を活かして先に進んでみたいと思った。


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