見出し画像

ロンドン演劇雑感、その6。ホーヴェ演出の『オープニングナイト』。リアルタイムのカメラ映像は、俳優の演技を破壊する。

 ロンドンに行ったもっとも大きな理由は、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の『オープニングナイト』を観るためだった。もっとも、見終えた感想は、首をかしげたくなるものだった。

 理由はいくつかある。
 第一に、二題のハンディカメラが撮影するリアルタイムの映像が、ほぼ休むことなく舞台全体を覆うスクリーンに投影されている。現在のビディオカメラとプロジェクターの性能は圧倒的で、舞台上にいる生身の映像よりも、大きくしかも鮮明に見える。

 演劇は、観客が今、何を観るかを選択できるメディアである。そんな人がいるかわからないが、俳優の足の先だけ、最初から最後まで見続ける観客も許される。けれども、今回の演出は、映像があまりにも圧倒的なために、今、何を観るかを演出家と映像スィッチャーが決める結果になってしまった。
 一例をあげると、シェルダン・スミスともうひとりの俳優が、重要な会話を交わしているときに、カメラは、他の俳優のリアクションを捉えている。当然、生身の俳優の表情よりは、このリアクションのほうが鮮明かつインパクトを持った。

 これは、ドーム級のコンサートでは日常的な光景で、たとえば、東京ドームの客席で、生身のテイラー・スイフトを見続けるのはかえってむずかしい。スクリーンの映像に眼を奪われるほうがあたりまえだろうと思う。

ここから先は

715字
この記事のみ ¥ 300

年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。