細胞と機能がビッチな件

自分の長所をあげるとき、とりあえず「丈夫です」と答えることにしている。反感を買いにくいし、わたしは本当に丈夫だ。それに、社会に出てからは知識がたくさんあるより、手先が器用なことより、丈夫であることが役に立つ場面がたくさんある。

1年近く前、以前からあった子宮筋腫が「小さいながらもよくない位置にある」ことがわかって、わたしは手術を受けることにした。これがある限り不快な症状は続き、今の段階なら開腹しなくても切除できるという。じゃあ取るでしょ。

術前治療は大変だった。できるだけ筋腫を小さくするために、女性ホルモンの分泌を止める薬を注射する。4週に1回と決まっているので、1カ月に1回のペースで通うことになる。

打って一週間目から副作用が出た。体は疲れているのにまったく寝つけず、理由のわからない不安感から嫌な考えばかりがめぐる。寝入ったと思っても目がさめると1時間もたっていない。そしてもう眠れない。体は疲れているのに。
一番つらかったのはほてりだ。急に着ているコートを引き裂きたくなるほどの暑さに襲われ、大汗をかく。母が更年期で苦しんでいたとき、「夏の縁側で西日を浴びているような」と表現していたことがよく理解できた。

5年ほど前のある日、熱っぽいと感じて計ったら38℃を超えていた。インフルエンザかもしれないと思い、翌日は仕事を休んで近所の病院に行った。そして、IgA腎症という聞きなれない病名を告知された。
難病指定されている病気で、自己免疫疾患のひとつだ。なんらかの理由で自分の免疫が自分の腎臓を攻撃してしまうらしい。2回手術して1カ月以上入院し、1年間薬を飲んだ。副作用で妙に太り、不眠に苦しみ、家以外ではずっとマスクをつけ続けた。治療中は透析だの移植だの悪いことばかり考えたけれど、幸い発見が早かったせいか寛解している。

わたしは基本的に健康だ。ほとんど風邪を引かず、おなかを壊すこともないし、睡眠時間も少なくて平気。体力はあまりないけれど、寝込むことはめったにない。それなのに。

子宮筋腫の術前治療で通っていた病院は大きく、毎回違う医師が診察する。情報はカルテで共有されているから特に問題はない。
4回めの診察のとき、いい加減、わたしは疲れていた。めまいや頭痛、息がつまる感じなど、自律神経失調症のような症状も出ている。最後に2時間以上眠ったのはいつだろう。

「なにかかわったことはありませんか」

聞かれたわたしは、初めて会った医師に切々と症状を訴えた。医師はパソコンの画面を見ながら、あいづちを打ったりたまに質問したりしつつカルテに入力していく。

「いつもは風邪もろくに引かないくらい丈夫なんですけど、たまに大きい病気見つかるんですよね、なんなんですかね」

わたしがそう言うと、医師がこちらに体を向けた。

「それ、じゃあ丈夫じゃないんですよ、たぶん」

免疫がちゃんと機能している人、丈夫な人は、菌なりなんなりが体に入ってきたら攻撃する。細胞に不具合があれば修復しようとする。その結果が熱や咳、下痢といった症状だ。なにもないのはただ受け入れているだけなのかもしれない。もしかしたら、しょっちゅう熱出したり下痢したりする人のほうが実は健康なのかもね。医師はそういったことを話した。
医学的根拠のあることなのか、彼の持論なのかはわからない。けれど、なんとなく納得した。

わたしの体は攻撃しない。なんでもウエルカムだ。ただし、もともと体にいいものではないから、いずれは破綻する。病気という形で。
クソビッチか、わたしの体は。寄ってきた男みんなとセックスしておいて、「誰もわたしを愛してくれない」と騒いでいるようだ。

とりあえず、術前治療が終わって無事に筋腫も切除でき、今のところ特に健康に問題はない。丈夫でも健康でもない可能性と、それどころか体がクソビッチな可能性が浮上した今、わたしにできるのは健康的な生活を送ることだけだ。
クソビッチがどんなにビッチでも、優しく見守り続ける冴えない幼馴染のように。

#エッセイ #健康 #子宮筋腫

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