しゃべる保湿クリームこと恋人との電話

水曜日のこと。

ここ最近、スーパーの野菜取り放題のごとく、そんなに伸びないビニール袋にぎゅうぎゅうに仕事を詰めてしまっていて、破けちゃう…破けちゃうよ…とか思いながら仕事をしている。そうならないためのフリーランスのはずなのに、すっかりビヨビヨになった己のキャパシティのなかで、どうにか歩を進める。

とかく前日から絶望的な低気圧が到来していて、心身に影響を受けてしまうぼくにとっては、ひたすらにつらい時間がつづく。低気圧のだるさを麻痺させるようにストロングゼロを飲んでしまい、わかりやすくアッパーからのダウナーを体感して気絶するように寝て、目覚めた、朝6時。

ふいに、向こうも起きていた恋人とLINEでゆるくやり取りしていると、「ちょっとTELしてもいい?」とスタンプがきて、電話する。うれしい。お互いの仕事であったことを話したり、恋人が今年やってみたいことなんかの目標を聞いたり、笑ったり褒め合ったりしつつ、さまざまに話す。

恋人の声はLINEの無料通話でも聞き取りやすくて、隣で話されているような気持ちになれるから、すごく好きだ。10分だけ、と始まった電話が、30分になり、1時間になる。太陽はすっかりのぼって、ぼくは朝食の肉じゃがと野菜スープをとりながら、恋人の声をからだに取り入れる。

敏感に、声の調子やぼくの発言を察したのか、恋人はねぎらい、励ましてくれる。これは以前にも日記に書いた気がするけれど、ぼくのように作家タイプではなく、納品先や仕事が散逸しやすく、実物のないウェブメディア主戦場のフリーランスのライターなんていうものは、あまり人から声で褒められる機会がない(気がする)。

チームの達成感みたいなものも少なくて、無事に納品が済んで「ホッとする」くらいのことが多い。なかには、がんばって納品しても音沙汰なし、なんていうこともある。だから、褒められたり、労われたり、励まされたりすると、実はとても嬉しくなったりする。文面はまだしも、声で、というのは貴重だ。

恋人の気遣いで、低気圧のつらさが次第に軽くなっていくのを感じる。ぎゅうぎゅうに押し込まれて乾燥していた心に、たっぷりの化粧水と、恋人からの励ましという保湿クリームが塗られて、みずみずしさを取り戻す。

わりと単純にできているタイプの人間だとぼくは思うけれど、単純な仕組みということは、裏返すと好不調の波を受けやすいともいえる。だましてやるロジックみたいのがない。自転車のチェーンにも時折は油をささないといけないように、ごりごりと進みの悪い状態では、何をやっても進みが悪くなる。

気づけば、1時間半くらい会話をしていた。ストロングゼロの負債はもうほとんどなくなって、どうにか今日一日を乗り切れそうな気力が湧く。

たまに「恋人さんのどこが好きなんですか」なんて聞かれることがあるけれど、それが答えられるんだったら存在はAIに置き換わっちゃう気がするし、なんかよくわかんないけど最高だから、みたいなことくらいしか、ぼくには言えないよな、とおもう。

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