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「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第44房:ほぼ100字小説始めました。そして鬱について。

『タクシー』 著名な占い師に薦められ、タクシーの運転手に転職した。当初は生活も不安定だったが、ある客を乗せてからは事情が変わった。それはもうこの世の者ではなかった。が、実に羽振りがよかった。その仲間も次々と乗せ、思い出巡りを手伝った。彼らの間で私は“故人タクシー”と呼ばれている。

深夜、全長160メートルの大仏が眩い後光を発しながら匍匐前進していた。山を砕き川を溢れさせ、町や村を破壊しつつどこかを目指していた。軍も出動し、包囲こそするが御仏への攻撃は躊躇され、解決の糸口は掴めずにいた。明け方、その終焉は目的地に着き呆気なく訪れた。自らの掌の上に着いたのだ。

流れ星だけで作られたという星に辿り着いた。思いのほか青くにじんだ星だ。零れ落ちた空の涙で出来た星とも言われているらしい。ここには宇宙の流れ者達が長い間降ろすに降ろせなかった傷を埋めにやって来る。その傷を養分にして育った樹が青く輝き、星の道を照らして次なる巡礼者を呼び寄せるのだ。

【ほぼ百字小説】特にどの本とどの本の間ということはなく、一、二冊指し抜かれた頼りない隙間にそれは出る。その隙間の左右の本が眠たげに寄りかかりあって長い二等辺三角形のトンネルを作ると必ずそれはやってくるのだ。けして目を合わせてもいけないが無視もいけない。それが今、こっちを見ている。

【ほぼ百字小説】各駅の月光列車で“指野原”に降りると見渡す限り白い指がはえていた。よく見るとうっすら透けており、血管や関節のようなものが見える。歩くと程よい弾力があり、一歩一歩が軽く浮き上がってしまう。まるでどこかへ運ばれているような感覚。いや、実際に運ばれていたのだ。首野原へ。

【ほぼ百字小説】昔から雷が鳴ったらヘソを隠せ、ヘソをとられるぞと言われてきた。こうなってみて初めてその意味がわかった。実際にはヘソが無くなるわけじゃない。確かにとられてはいるが。占拠? そう、占拠されたといった方が正しい。彼らは今、私のヘソの中で暮らしている。今日で丸二年になる。

深夜。マンション3階の自宅にふらふらで辿り着いた。だが鍵が合わないのかドアが開かない。仕方なく呼び鈴を鳴らし、妻を待った。起きる気配はない。ガチャガチャとノブを強く回して音を立ててみるが変化はない。諦めてどこかで暇でも潰すか、とエレベーターに乗り込み気が付いた。そこは4階だった。

送られて来ているのはわかった。わかったというより、感じるといった方が正しい。それはチラシの見出しであったり、電車のつり革広告の一言であったり、公衆トイレの落書きであったり。姿かたちを変え、至るところに現れる。間違いなく俺へのサインだ。だが一体何のための? #もやもや系非百字小説

古い洋館が音を立てて燃えていた。巨大な蝋燭が灯ったように町全体がやけに明るい。業火に包まれた館から舞い上がる火の粉が漆黒の夜空へと吸い込まれていく。材木の爆ぜる音と軋む音が強くなった。半壊が近い。館を囲んだ群衆は身動ぎもせずじっと見ていた。燃え盛る炎ではなく真後ろにいるこの私を。

七人の巨人たちが音もなく街に近づいていた。肌寒い外気の中、彼らの周囲だけが陽炎のように揺らめいている。彼らには共通の特徴があった。裸体で一切の体毛がないのだ。だが一番の特徴は首の角度だろう。全員「?」と疑問符を浮かべるように首を傾げている。彼らはそのままゆっくりと街を素通りした。

“僕を見たら死ぬ”――それが都市伝説みたいに広まっていて誰も見向きもしてくれない。初めは軽いイジメのつもりだったのかもしれないけれど、トラウマのせいか僕には人生前半の記憶がない。気が付いたら忌み嫌われていて目が合うだけで皆青い顔で逃げ出すんだ。そして必ず死ぬ。言霊って本当に怖い。

宇宙の彼方からなんかすっごいのが来てる。ギュイィーンて。肉眼で見えてる。あれヤバくね? やばいけど見て見ぬふりして生活する。や、ほんとガチマジでやばいんだけどさ。あえて普通にハムエッグ頬張りながら「おまえ卵にソース派かよ!」とか突っ込んで安心しようとしてる自分がいて。僕はバカだ。

毎日一個ずつ月が増え、ついにあと一個で空が完全に埋まる。七個目までは皆騒いでいたけれど、百個目くらいからはたまに見上げて会話するくらいになった。千個目ではもう飽きられていた。ところが空が半分以上埋まり出した時パニックと暴動が起き、人類はあっけなく滅んだ。それでもパズルは完成した。

赤い小さなトンネルと青い大きなトンネルがあって、自分は透明で、煙みたいに漂っていたように思います。施設というよりは劇場に近くって、100年前と変わらずに、3億年くらい未来から少しずつつ浸食してきて今ちょうどここに差し掛かってる星の光みたいな存在なんです。淡いけど壊れない。永遠に。

【ほぼ百字小説】白い塔に登る。気がつくとそう思っていた。この街に住んでいればどこからでもその白い塔を目にすることができる。いつ誰が何のために建てたのかは思い出せない。だがあの塔が街の中心であり、ランドマークであることは間違いない。その塔に登る。登れば何を為すべきかもわかるはずだ。

【ほぼ百字小説】あ、来た――というのはすぐにわかった。机の上に広げっぱなしにしていたノートにペタペタと足跡がついたからだ。ちょっとした間があり、次の瞬間棚の上の埃が舞った。ジャンプもできるようだ。それはしばらくあちこち嗅ぎ回り、今は恐らく私の頭の中にいる。こいつは一体なんだろう?

人身事故で電車が止まるたび、またかよと思う。生きていて嫌気がさす日もあるのだろうが他に方法は無かったのかと責めたくもなる。だが違った。“あれ”は常に口を開けていたのだ。ストレスや疲れを溜め込むとまるでテレビのチャンネルが噛み合ったように忽然と姿を現すあれ。それが今、俺には見える。

旅館で締め切り原稿に追われていた。ライフワークだった作品の結末が決まらないのだ。ふと視線を感じて振り返ると押入が僅かに開いている。開けた記憶はない。閉め直して執筆に取り掛かる。が、気づくとまた押入が開いていた。さすがに怖くなって中を確かめた。瞬間、「シメナイデ」背後から声がした。

知らない宛先からメールが届いた。きっと迷惑メールの類いだろう。普段なら開けないのだが、タップを連打する癖でつい開けてしまった。メールには画像が三枚貼り付けられていた。一枚目は黒髪の美しい女性の写真だった。二枚目は彼女が僕と腕組みしている写真。三枚目は僕が首を吊っている写真だった。