世界の医療標準からみた受けてもムダな検査してはいけない手術

『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(13回) 正しい医療を受けるために

正しい医療を受けるために

 前述のとおり、チュージング・ワイズリーの目的は、医療従事者と患者との対話を促すことです。
 日本では、患者が医師に診断や治療の意味を問うと医師から文句を言われるということも耳にします。専門家と非専門家の間の壁を壊すのは簡単ではありません。ですが、米国が目指そうとしているチュージング・ワイズリーの思想は、医師たちのほうからこの壁をのりこえよう、という試みなのです。
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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(12回) 医師が自らムダな医療を名指しする不思議

医師が自らムダな医療を名指しする不思議

 ではなぜ、医学会が自ら不必要な医療を名指しするのでしょう。
 今回、ABIMファウンデーションに取材した事実などを踏まえて言えば、この背景には、過剰な医療への問題意識が米国の国内で高まっていることがあります。
 米国では、オバマ前大統領が、2009年に医療保険を全国民が利用できるようにするアフォーダブル・ケア・アクト(ACA)と呼ばれる法律、いわゆるオバ

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(11回) 不必要な医療のリスト

不必要な医療のリスト

 ABIMは、内科の専門医を認定する組織で、もともと医学会と強いコネクションがありました。一方で、その関連組織であるABIMファウンデーションは、医療の適正化を使命にかかげている団体でもあります。プロジェクトはまず、テキサス大学の医師のアイデアで、不必要な医療を5つのリストの形で各医学会にあげてもらう、ということから始まったのです。最初は9つの医学会だけで始めたのですが、A

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(10回) 第2章 エビデンスが突きつける 「その医療、まだ続けますか」 2013年の米国の医療事情

第2章 エビデンスが突きつける
「その医療、まだ続けますか」

2013年の米国の医療事情
 2013年のことでした。米国の医学会の動向をいつものようにチェックしていると、見慣れない言葉が目に入ってきたのです。
 「チュージング・ワイズリー」という名の“キャンペーン”とありました。
 日本語でキャンペーンといえば、何かの商売のイベントのようなイメージもあります。ですが、医学会が行うキャンペーンとい

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(9回) 広がる最新医療知識のマニュアル化

広がる最新医療知識のマニュアル化

 そうして生まれてきたのがガイドライン、言ってみればマニュアルです。エビデンスを整理し、実際の医療の方針として整理したものです。さまざまな分野でガイドラインが出ており、日本でも発行されるようになってきました。ですから、こうしたガイドラインを参考にすることで、間接的にエビデンスを知るという方法もあります。

 そうした中で2010年代に始まったのが「チュージング・

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ヘルスケアテックの良いところと悪いところ

AIプロジェクトを立ち上げて結果を測定する病院やその他のタイプの医療機関の数は、過去数年間で劇的に増加しました。ロボット支援手術、仮想看護アシスタント、管理ワークフローアシスタントは大きな投資を引き付けるプロジェクトですが、AI関連のヘルスケアイニシアチブの範囲は広いです。ほんの数例を挙げると、テレヘルス、予測ロジスティクス、およびAIによって生成された診断も混在しています。

さらに、ゲノム研究

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(8回) ムダな医療を防ぐ手段とは?

ムダな医療を防ぐ手段とは?

 国際的に見ると、こうしたムダな医療を防ぐには、診断や治療の根拠に目を向けることが重視されるようになっています。根拠とは何かと言いますと、研究の成果です。人々が診断や治療を受けた結果として、その後に何が起きたのか、ということを統計的に確認するような研究が世界中で行われています。この結果を参考にして、診断や治療にメリットがあるのか、デメリットがないのかを考えることができ

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(7回) 影響は軽いものから命にかかわるものまで

影響は軽いものから命にかかわるものまで

 こうした状況は、医療を受ける多くの人に共通しています。

 医療機関が勧める診断や治療には、必要性を疑うべきものがあるのは確かです。そこから受ける影響は軽いものから重いものまであり、たとえば、入院し続ける高齢者の問題はここに当てはまるかもしれません。

 私は2018年、ある雑誌の取材で、高齢者が必要もなく入院させ続けられている状況があることを、あらため

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(6回) ムダな医療と情報の渦

ムダな医療と情報の渦

 日本では、高齢化にともない医療を受ける当事者の数が増えています。後ほどご紹介していきますが、入院や外来で医療にかかる人は年々増えており、自分の問題となることで、医療への関心も高まっています。

 私がムダな医療についての書籍を書いていた2014年ころは、一般の医療への関心の高まりを感じ始めたような時期でもありました。当時世の中では、STAP細胞と呼ばれる、どんな細胞にでも

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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(5回) 医師も気づいていないムダがある?

医師も気づいていないムダがある?

 一方で、医師が知らずにムダな医療を行っている場合、というのも多々あります。医師が知らず知らずのうちにムダな医療を提供しているというのは信じがたいことのようにも思えますが、医療の分野では日々、新しい発見が続いています。専門分野ならまだしも、専門外の分野での進歩には目が届かないことは十分にあり得るでしょう。

 これまでは意味があると考えられていた医療行為に、実は

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