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映画レビュー 劒岳 点の記

今回の映画レビューは2008年公開の「劒岳 点の記」。

日本を代表するカメラマンと言われる木村大作の監督作品。物語の主人公の測量チームのリーダーである柴崎芳太郎が浅野忠信。その測量チームを最後までサポートし続けた宇治長次郎を香川照之が演じている。

これは明治時代の測量登山の物語で実際にあった出来事で、当時登頂は無理とされていた劔岳を巡っての物語である。序盤から前半で劔岳登山の理由、その背景についてのシーンがあってこれが結構重要。陸軍測量部の内部事情(山岳会との競争)、地元立山の山岳信仰との絡み、登山チーム内での人間関係など。それらが様々な困難とドラマを生み出しているとは思う。

この映画は人間関係のドラマよりも、この登頂不可能とされていた劔岳をどうやって登るのか?というのが最大の焦点。しかも現代の登山ではなく明治時代の登山で、映画内にも出てくる登山装備はそりゃ貧弱なもの(それでも当時は最新装備だったはず)。文字通り断崖絶壁の中を悪戦苦闘しつつも山頂を目指すというところが最大の見所になるはず。

さらにこの作品は映像がとにかくすごい。監督が木村大作という撮影界の重鎮であり、この作品も映像にはとにかく細部にわたって拘りを感じる。山岳の映像はCGを一切使わずにすべて実際の映像であったと言われ、自然の風景の素晴らしさを感じることが出来る。劇中にも立山連峰から富士山が見えるシーンがあるが、これも当然実際の映像らしい。

ただこの映画の撮影スタッフ(俳優陣も)はかなり大変だったようで、この作品の撮影日記とされる「劔岳 撮影の記」で撮影の裏側を取り扱った作品でその過酷さを伝えている。まるでコッポラの黙示録かよ…って感じなのだが、実際に山頂まで行ったものの、悪天候で撮影出来ないなんて日が何回もあったという感じの事が描かれていて(描かれるもに何実際の映像だが)、こちらもある意味で見所がある作品だと思う。

本編の内容に戻るが、個人的には残念と言うか少し気になったのは最後のヤマ場で山頂への登山シーンが省かれている事である。まぁ真面目に見ていれば山頂に至るまでの苦労は散々描かれており、今更説明しなくてもいいだろうというの考えは想像がつく。更には実際に期待された最大の成果は…って事になるので、意図的に描いていないとは思う。ただ実際にこの登山チームの目標は劔岳の登頂であり、ここに至るまでの散々あった登山チーム内の男のドラマなども考慮すれば、クライマックスとして山頂へたどり着くシーンがあっても良いようにも思えた。

しかしこれは最後のシーンで気づいた事で、この測量チームの本当のクライマックスは劔岳山頂への到達ではなく、劔岳に設置した観測点を別山から測量する事であるという事。この測量時にライバルとして登場する仲村トオル率いる山岳会との間で交わされる手旗信号での交信があり、お互いを称えあうシーンはちょっと感動させらた。

まぁ実話を題材にしているし、登山に興味が無い人にとっても先人の苦労と努力を知れる良い作品だと思う。また何と言っても最大の見所は映像面であり、このド迫力は見応え十分だと思う。個人的には実際に映画館で鑑賞したので、その映像のド迫力と音響でリアル感満載だったという印象は強い。



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