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『星のカービィ スーパーデラックス』と消えたデータ

今のビデオゲームでは考えられないくらいに、昔のゲームというのは簡単にデータが飛んだ。すぐデータが消えるものとそうでないものがあり、個人的な印象としては、ゲームボーイのカセットはタフなのだが、スーパーファミコンのデータは圧倒的に消えやすかった。

動画配信もSNSも、そもそもスマートフォンもタブレットもあるこの時代に生まれた子どもが親からどのようなルールを強いられているのかは知らないが、僕が小学生くらいの頃(もう20年以上も前のことになる)は週に1時間までなどのルールがある家庭が多かったのではないだろうか。

我が家は特に厳しく、小学校低学年の頃は週に30分までという制限がかかっていた。兄と僕のゲーム時間を足し、一緒に遊べば1時間いけるとか、先週はゲームをしなかったから2時間遊べるみたいなことを計算しながら、週末に一緒にゲームをしていた。

あとは、友人の家でゲームをする時間は「社交上の問題」としてノーカウントとすることが暗黙の了解となっており、そこでコツを掴み家で自分のゲームを遊ぶときに効率よくストーリーを進められるようにしていた。

そんな貴重なゲーム時間を使って進めたゲームのデータがいとも簡単に消えてしまうのである。うーん、スーファミの電源を入れたのになんか上手く映らないなとカセットを取り出し埃でもついていやしないかと息を吹きかけたらデータが飛んだこともある。理不尽この上ない話だ。

ポケモン(当時は赤とか緑とか青とかピカチュウ版の頃だ)は、データが飛びづらくてよかった。しかし、マリオやドンキーコングなんかは怪しかった。

とりわけデータ消失の憂き目にあったのは『星のカービィ スーパーデラックス』である。

当時よく遊んでいた友人の家に『星のカービィ スーパーデラックス』があった。格ゲーや対戦形式のゲームではないのに二人で協力プレイができるのが特徴で、プレイヤー1はカービィ、プレイヤー2はカービィがコピーした敵キャラを操作してクリアを目指すのだ。

どんなアクションゲームでもそうだと思うが、簡単な面と、難しくはないが時間がかかる面と、難しいがコツさえ掴めば時間がかからない面と、運が良くないとなかなかクリアできない面がある(たまにマジで無理なやつもある)。カービィもごたぶんに洩れずで、途中の宝探しの面がとても楽しいのだが、二人で上手く連携する必要があり、結構時間がかかる。

最初のうちはデータが飛んでしまっても、まだクリアしていない面の方が多かったし、なんだかんだで練習のような感覚で最初から再度プレイしていた。なんならどんどん短くなっていくプレイタイムを見て、難易度が高くない割に時間がかかる面もタイムアタックのように楽しんでいた。

ある時、奇跡的にゲームデータが飛ばず、残すは最終面のみとなった。学校で「今日クリアしようぜ」と話したものの、友人の家はその日彼のお姉さんが友人を呼ぶため遊びに行けないとのことだった。今であれば「じゃあ日を改めて」とすればいいのだが、待ちに待った最終面へのチャレンジである。いつデータが消えてしまうか分からない。今日クリアしたかった。

我が家でゲームをすれば、友人とであろうときっちり週30分の持ち時間から引かれる。つまり、週末に自分のポケモンを進める時間はなくなってしまう。しかし、その時の僕にとってそれは大きな問題ではなかった。カービィが優先である

友人がゲームカセットを我が家に持って来ることになった。

制限時間は30分だ。初めての挑戦する最終面を、30分でクリアできるのだろうか。当時の我が家は親が共働きで、同居していた祖母さえ口を割らなければ多少ゲーム時間をオーバーしてもなんとか言い逃れできる。それでも、伸ばせて1時間までだ。それ以上の引き伸ばしは祖母も見逃してくれない。

友人の家と我が家は近く、数百メートルの距離だったが、その日は彼が家に来るまでずいぶんとかかったように感じた。
彼は、彼のお姉さんを説得し『星のカービィ スーパーデラックス』の持ち出しに成功した。お姉さんもカービィで遊びたいと最初は主張したらしかったが、その日の彼の分のおやつを差し出すことで交渉が成立したらしい。今思えば、お姉さんは別に他のゲームで遊べばいいやという算段があり、ちょっと駆け引きしてやろうくらいの気持ちだったのだろう。年の功である。

そんなこんなで、僕はその週のゲーム持ち時間を、彼はその日のおやつを犠牲に、カービィをプレイする準備が整った。あとは時間内にクリアするだけである。我が家のゲーム持ち時間の件は彼も承知している。ゆっくりと遊んでいる余裕はない。とにかく、クリアするのだ。気合を入れ、スーファミにカセットを差し込み、電源を入れた。

「あと最終面だけ」のデータは残っていなかった。

カービィはセーブデータを確か3つ作ることができたのだが、僕らが進めていたはずのデータには残酷にも「0%」の文字が光り輝いていた。後から聞いた話だが、彼のお姉さんも割と進めていたデータがあったらしい。

またもやエンディングは僕らの目の前から消え去ったのである。

彼の家から我が家へ至る道のりでの振動が原因だったのだろう。もちろんだが、彼だって慎重に運んだことだろう。早くクリアしたいとはやる気持ちを抑え、走るのではなくそろりそろりと歩いてきたのだ。それは時間もかかるはずである。

しかし、努力も虚しくセーブデータは消失していた。

落胆した僕らは、また一から出直すことになった。またデデデ大王やメタナイトに挑むしかない。彼らだって「何回来るんだよ」と思っていたことだろう。いや、都度記憶もリセットされ、新鮮な気持ちでやっていてくれたかもしれないが、少なくともこちらは「何回やるんだよ」とセリフ部分を連打しながらプレイすることになった。

今時のゲームでこんなにセーグデータが消えていたら、おそらく大問題だろう。買い切り型でもよくないが、課金したりログインボーナスがあったりするソシャゲでは大変である。

しかし、ゲームデータがたびたび消えるせいで僕らはなかなかクリアできず、なんだかんだで飽きもせず同じゲームで遊び続けることができたのである。

就職してから彼とはなかなか会えていないが、小学校低学年の頃の彼との記憶は今でも薄れずに残っている。もしかしたら、カービィのデータが消え続けたおかげかもしれない。

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