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なぜBLなの? - 私がBLに惹かれる理由

 私が初めて小説を書いたのは2020年2月頃と、まだ3年くらいしか創作活動をしていない「遅咲きのオタク」だ。ゆえに、BLへの目覚めも腐女子(あるいは貴腐人)としては遅かった。

初めてBL的なものに触れたきっかけ

 ミニシアターブームに大学生だった私は(と書くと、年がバレそうだが……)ウォン・カーウァイが好きだった。初めて日本で上映された本格的な商業LGBT映画とも言われる「ブエノスアイレス」も、劇場公開で見た。これが、BL的なものに触れた最初だと思う。

 男性同士のラブを堂々と描いたことが世間に衝撃を与えたらしい。だが、私がそこに見たのは、腐れ縁で出口も未来も見いだせない、ダメダメな恋愛をしている人間二人のドラマだった。男同士だからどうこうというのでなく。二人とも互いに愛情は残っているものの、相手が求める形での愛情を互いに与えることは難しい。だから”Happy together”(注:この映画の原題)な未来はあり得ない組み合わせだった。幸せになれないと分かっているのに別れられない二人。そんな二人を包む異国の景色とタンゴの音楽。圧倒的な異国感。「地球の裏側まで来て、俺、何しちゃってるんだろう」感が半端なかった。
 とは言え、全く男同士ならではの要素がないかと言えばそうではない。地球の裏側まで来なければ、きっと居場所のない二人だったのだ。

 関係性そのものは、セクシュアリティにかかわらず「幸せになれない組み合わせの二人」でしかないが、その二人が世界の果てまで行ってしまったのは、男同士だったからだろう。

 ちなみに映画「ブエノスアイレス」で、地球の裏まで逃げた恋人の片割れを演じたレスリー・チャンは、「さらば、わが愛 覇王はおう別姫べっき」でも同性愛者の役を演じており、こちらも私の大好きな映画だ。「さらば、わが愛〜」では男同士というしがらみに加えて、文化大革命という歴史のうねりが運命を狂わせる。

 どうやら私は、自分の力ではコントロールできない要因によって翻弄される恋愛というのに惹かれるところがあるようだ。

(とは言え、創作BLを取り巻く社会環境も変わっている。少し前の創作には、「男同士の恋愛に対する葛藤やためらい、周囲との軋轢」が主要テーマ・モチーフとして描かれるのが定番だったが、昨今は、あまりそこを大きな障害として描かず、普通の恋愛として描く作品が増えてきているように私は感じている。)

 その後しばらく映画や一般小説を好んで読み続け、社会人になり社畜への道をまっしぐらに進む中で、フィクションの世界に浸る楽しみを忘れていたのだが、改めてBL沼に落ちるきっかけになったのは夫だった。彼の仕事の都合で韓国との縁が深くなり、遊びに行ったソウルで夫が買ってくれたのが某K-POPアイドルのライブDVD。ビジュアル、歌、ダンス、ひたむきさ、全てに一気に心を鷲掴みされ、人生で初めてアイドルを推すことになった。しかし、その時彼らはちょうど兵役中。彼らの情報に飢えた私は必死にググりまくる。そして出会ってしまったのである。二次創作に。とは言え、二次創作に関しては私は読み専のままなのだが。

(ちなみにその後、人生で初めて好きになったアイドルが結婚し、ドルヲタの悲哀を十分に味わい、早々に「卒ペン」して今日に至っている。……って一言で書いたが、卒ペンに際しても、立ち直るには失恋並みに時間を要した。今も好きなK-POPアイドルはいるが、もうあんな風にハマることはないだろう)

 しかも推しの結婚で受けた衝撃、悲しみを癒そうと書いたのが、BL二作目「期間限定の恋」なのである。

(だから攻めの勇樹の元カレが韓国人だったり、訓志が元アイドル練習生だったりする)これが未だに私のBL小説の中では一番人気があるのだが、やっぱり、強い動機があって書いたものは強いんだな~……。

BL小説を書き始めたきっかけ

 時を同じくして――社畜業にも疲れて「もう、そっちはこんなもんで良いかな」と思い始めた頃、友人のすすめで創作を始めることにした。最初に書いた小説は、男女の恋愛小説三部作「彼氏にしてはいけない職業」だった。美容師、バーテンダー、バンドマンの「3B」の男とだめんずなバリキャリのお話である。

 バンドマンが特に好評で、今度はBLでバンドの話を書いて欲しいと友人に言われて書いてみた。それがBL処女作の「僕らの恋の練習曲エチュード」だ。なお、私自身はバンドを組んだ経験はないので、経験のあるブラスバンドを舞台にした。

 それまで1万字前後の短編しか書いたことがなかった私が、初めて8万字という長編を書き上げた。まさか、自分が8万字も書けるなんて思ってもみなかった。これだけの長さになると、主人公は勿論だが、脇役に対しても愛着がわく。ひとつの世界を自分が創造する楽しさを私は知った。BLを書くのが楽しいと思ったのは、自分と異なる性の主人公を描くことは、客観視しやすく、自分と切り離して冷静に考えやすいので、より自由に発想を巡らせることができるからだ。

改めて、私にとってBLとは

 創作者として、私は恋愛小説書きだ。人と人とのかかわりの中で、恋愛という関係性に強く心惹かれる。心のドラマチックな揺れ動きを傍観者として眺める時間が長かっただけに、恋愛について考える時間が長かったからだと思う。その辺は以前「私が小説を書く理由」に書いた。

 では、「BLでなければいけない理由」は何なのか?

 思い返せば、私は「ブエノスアイレス」と出会ったのち、「風と木の詩」も「残酷な神が支配する」も山岸凉子先生も読んだ。正しく文学好きな女子として名作は履修してきている(足りなかったらすみません……)だがそれは、一般文学も含めてのフィクションを楽しむ中での一つのたしなみともいえる。
 書けば書くほど、BLが面白いと思うのは、主人公が男二人で、恋愛で、その他にも、特に商業の世界では「お決まり」があることだ。BL小説の第一人者・一穂ミチ先生も、一般文芸とBLを「自由演技と規定演技」だと評している

 男同士の恋愛には、何らかの制約が加わる。創作者としても制約がある。私は、何か制約・前提条件があるほうが発想・創造できるタイプの人間なのかもしれない

 余談だが、夫と初めて会った時、「何の制約もなく、自由に好きなプロジェクトやって良いと言われたらどんなことをやりたいか?」と聞かれた。それに対する私の答えは、「何らかの制約や前提条件があり、それをどうにかするのがプロジェクトなので、『制約のないプロジェクト』というのは、ちょっと思いつかない」だった。

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