原田放

主に短編小説(日曜・投稿予定)。春に向けて書いています。魅了された小説で掴んだロープを…

原田放

主に短編小説(日曜・投稿予定)。春に向けて書いています。魅了された小説で掴んだロープを今度は人に渡せたら。自然に景色を描ける日に。

最近の記事

映画「PERFECT DAYS」

「PERFECT DAYS 」観てきた!!!  不思議と物を食べるシーンがなかったな、と懐古する。食事の席として居酒屋、ベンチでのランチ(昼食休憩といった方が適切かな?)での場面はありつつも、物を口に運ぶことはなかった。同様に平山が排泄することもない。そこに意味を見いださないけど、なんとなく気になった。「静かな暮らし」を彼は営む、と映画の前、予期していたけど確かな音があった。自販機のボスの、おそらくカフェオレを飲むシーン。そうだ、口に飲み物は運んでいた!あれは朝食代わりだった

    • 2024.1.1. 日記

      ご無沙汰してます。 整理すべき事があるような気がして、筆をとった。 割りと忙しく過ごした昨年だった。文章を通じて静かに自分と向き合うと言うよりは、激しい言葉で社会と対峙するような姿勢の日々だった。時に、ネット上で主張することもあった。 「このままではいけない」と闇雲に叫ぶ若者のように。 だが、重要なのは変化を求める事柄の論点をしっかり示すことで、それはある程度専門分野を勉強しないと見えてこないと痛感した一年だった。自分が突き詰めて考えてきた筈の心の存在だって、他者に伝える

      • 【短編小説】 空音 (5600字)

         部屋は散乱していた。本、プリント、古い雑誌。  資料だろうか。足の踏み場がないわけではない。だが、余白のない空間。ギターが壁に立て掛けられていた。存在は周囲に埋没する。ここでクドウが歌う姿はイメージがつかない。    かつて耳を撫でた不気味な声、メロディー。稀有さは確かにあった。近くにいた彼以外もそれは認めた。  何年かの昔、夏の日の演奏後、クドウに対する表立っての称賛は多くなかった。しかし、週末の打ち上げの席で、ある種の合意は確かにあった。才能が現れた喜びと部員間での

        • 【短編小説】 今帰る場所 (1800字)

           遠く伸びる住宅。行儀よく並ぶ窓はこちらを映すだろうか。数多のステレオタイプに紛れて、誰の姿さえ世間に消えていく。  分けられた。いや、自分で線引きした。  正常、これは異常。理解可能、または不可能な領域。  過去と現在。 「ここからは出られない」  はぐれた後ろ姿があった。明日からは誰も顔は知らない。  そういう人になった。  遠くの風景で、もう届かない人として息をしている?  過去の日々は戻れないあの頃になった?  いつか分かるだろうか。  この無様な反復が何を意味

        映画「PERFECT DAYS」

          【短編小説】 18、初夏 (2200字)

           午後5時半になるとバスが出る。一度、軽いクラスチョンを鳴らし、道路を左折していく。あの先は見えないし、知らない。おそらく人の生活だ。  働く、を脱ぎ捨てる時。今は想像するしかない夕げ。誰かとの笑い声、やがて、そこに帰ってくる人。  夕飯まで外を眺めていた。人の影もない木陰を。  部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。窓辺。少ししか開かない窓。自殺がリアリティを持つ懸案事項らしい。あるいは他害の恐れ、か。 「一応は守られている」とそう呟く。  厳かな空間には、何を述べたかも不明に

          【短編小説】 18、初夏 (2200字)

          【短編小説】 オルタナティブ.1 (1400字)

           何度繰り返せば、どこへ行けるかも分からなかった。  暗中模索といえば聞こえはいい。ただ一筋の光の下で夜を生きていた。今、過去を美化すると。  本を借り、半分位は読んで、二週間後に返す。多くの本だ。また借りてくる。見えない世界を探求するつもりだった。人間の内部、暗部を。教科書ではない本を開いた。誰の要請も教育でさえもなかった。  現代を生きる人を知った。訪れない都市の声を通じて、世智に長けた自己像を形成していった。いる筈だった未来の姿だ。  日々が過ぎる中で、どうしても

          【短編小説】 オルタナティブ.1 (1400字)

          【短編小説】 オルタナティブ.2 (1400字)

           遠い惑星に住んでいたとしたって驚きはしない。彼女が(一時的に)そこにしか存在しないとしても。  事実、当時、空の下ですれ違うことも、ドアを潜る姿さえ見かけなかった。常に、そこに彼女は座っていた気がする。入館すると自動的にそちらに向く目線。そして、瞬時に目を離す。それもきっと見透かされていた。  それから館内をうろつく。新たな小説を物色する。出会いを待つ人は眠る。今はまだ、何も言葉に過ぎない。  あの髪色を遠くから眺めた。輝く千々の線。僕に出来ることはなかった。彼女の仕事

          【短編小説】 オルタナティブ.2 (1400字)

          【自分語り】 2023.4(1000字)

          列車で帰る時、日が長くなったと窓を見る。 春の訪れより、夏の予感を早くも楽しんでいた。テレビで野球を流すだろう。それまでには帰るから、しがない生活だ。 つとめを終えて巣に戻る気持ちは軽やかで、微かな疲労が心地よい。初めてのことだ。 ドアを閉め、開ける。再び、開けて、閉める。窓を開け放つ。空気を部屋に呼び入れる。椅子に座る。「誰か」を与えられた居場所。 僕を待つ人はいない、僕が待つ人も。ここでは温かな呼吸の生命は自分一つだった。 そこで何をしてきたかは重要ではないのかも

          【自分語り】 2023.4(1000字)

          【自分語り】 2001-04 (2100字)

           取り立てて自分が不幸だと述べることもない。特筆すべき苦労をしたわけでもないし、環境との折り合いが悪かったわけでも全然ない。  これは決して自慢でもなく。  例えば、近くを生きる人に望まぬことを強いられてきたとか、誰かの都合を優先して自分の道を諦めたとか。いや、例えにもなってないね。だけど、具体例を出すのは憚られるほど苛烈な現実を過ごしている方は今日もいるだろう。    貧弱な想像の中で、今も苦しみ痛み生きる後ろ姿を、目の届かぬ場所で愚直に描きたいと思ったりもする。それこそ

          【自分語り】 2001-04 (2100字)

          【自己紹介】 過去の後 (2100字)

           全てを明らかにする必要もないけど、少し自分について話そうと思う。  赤裸々に思いや現状を話すことが時に困惑を生むとして、それは僕の目的ではない。一冊の本として目次をひらりと開きたいだけだ。  つくづくこの頃、フィクションとノンフィクションの境目が分からない。現実と意識とはなんだろう。分からない。  実生活とこの存在は自分が作り、現実に作られてゆく。未来は過去へ行く。存在は環境とも相互に影響する。  でも、全て頭の中のこと?だろうか。  それでも、日々の中で選び、手に入

          【自己紹介】 過去の後 (2100字)

          【短編小説】 寝過ごす者をゆらすこと (1900字)

          「力になりたい」  二段ベッドの上、布団を被り潜んだ。部屋にいる誰もが僕がここにいると知っていた筈だが、誰も気に留めない。この存在は二つの耳となり、布団の外、形作られる不格好な曲線だった。  隠れる感覚に幼少期から親しんだ。誰かは見つけてくれる。だからこそ自由。世界の内外、そこはいつも母だった。  母の一言で兄は一層、閉じ籠った気配を感じる。二人の息づかいを間接に想像する。母はいつもの表情をするだろう。見据える視線、口許には少しの笑み。真正面、母の強さだ。  病める時も

          【短編小説】 寝過ごす者をゆらすこと (1900字)

          【短編小説】 春の夜(2200字)

           理解がある人だった。 「あなたの気持ちは分かる。僕も同じ境遇だった」  それ以上、突っ込まない。何も知りたくないし、どうなることでもなかった。もう何も変わらない事だけは確かだ。先生の言葉を額面通り受け取らないし、もはや授業でもない。  それに「あなた」と言った。この三年間は嫌と言うほど親しみを込めて、生徒を下の名前で呼んでいた。一人ずつ。少年、少女。気安く虚構の誰かのように。疎ましく嫌がる人もいた。「身の毛がよだつ」と僕に伝えた、感性が豊かな友。  僕はむしろ嬉しかった

          【短編小説】 春の夜(2200字)

          【短編小説】 日々の後ろ (3100字)

          「燃やしたカミはどこに行く」  それから長い間、沈黙があった。時計の針なんてもうどこにもないのに、あたかもどこかで、チクタクと秒針が揺れている。  髪、紙。あるいは神?  フジタさんは現実を述べているのか、哲学的な話題なのか、僕には判断できなかった。する必要もない、今日は空白の一日だ。起きる全て、どれも空白の思考。何もしないと皆で決めた。  未来を前にした束の間の猶予だった。 「昨日燃えて、灰になり風に舞っていった」 と僕は胸中で呟く。  布団もない床の向こう、それで良か

          【短編小説】 日々の後ろ (3100字)

          【短編小説】 deAr (1800ji)

           さあ、ここに一本のペンと一片の紙。 ここからどこに行こうか、夢見るのはまだだ。行方知らずの旅人、その人を追おうか。まだ死んでないことに息を吹き込もうか、即ち想像、それを創造と呼ぶなら、    あなたは立派なクリエイター。     なにも作れやしないと、見定めた帰り道、夕日、感情さえ神の身のままに。宗教はうそくせえから、誰も信じないと言う、だが、お前の身に付ける端々がなんの意味があると言うの?お願いだから裸でいて、失われた広野。まだ荒野、  硬貨。  僕だけが嘘だな。

          【短編小説】 deAr (1800ji)

          【感想】 映画 「エンパイア・オブ・ライト」を観て

           続きを知らない。知る由もなかった。  ここが始まりで、終わりで、つまり、今だった。  人生、私は目の前にいる。  誰にも薦められない映画を、誰に薦めようかと考えていた。一週間が過ぎる。映し出される私、それらを観る私があった。日常に入り込む、フィクション。あるいは、虚構的な僕の最近の日々。  いつでも胸の中、そして、居住空間の隅々に彼らの手触りはあった。  言語化できない思い、作者の思考が成したシーン。声のない音楽。男女の視線、ふと見せる表情、時代のうねり。飛び立つ鳥は窓

          【感想】 映画 「エンパイア・オブ・ライト」を観て

          【短編小説】 浮遊 (1800字)

           初めに、目にし、話し、そして触れる。予感はない。やがて何か思うかもしれないし、同じ風景を眺めるかもしれない。時が来れば、止めどなく互いを認め合うかもしれない。  音楽と共に道を行く。先の方へ向かい、肩は自然に接し、いつしか唇は結ばれる。すでに結ばれている。ただ一方の思い違いではないと、必然だと願う一人は、出会ってから初めて孤独を知る。およそ生きてきて初めて。  それまで、「ずっと一人だった」と呪文の如く自らを励ましてきたのに、その言葉は不意の形で息を吹き込まれる。  出会

          【短編小説】 浮遊 (1800字)