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#6 変われない企業と個人の不都合な真実

働きごこち研究所」という会社を経営している、藤野貴教(ふじのたかのり)と申します。人・組織の働きごこちを研究して、大企業や経営者向けの研修、採用コンサルティングをしています。今回は「なぜ働き方改革は進まないのか」を探っていきます。“これからの働きかた”に興味がある人、大企業で働きづらさを感じている人、どうせ働くなら楽しく働きたい人に、ぜひ読んでいただけましたら嬉しいです。

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顧客が離れていく企業の不都合な真実

こんなことを感じるときはないでしょうか。

「紙で郵送する請求書、オンラインではダメなの?」「印鑑捺印を8箇所にも押す必要があるなんて、本当?」「オンラインバンクの画面、使いにくいな」「9:00~15:00までの銀行窓口に行かないと手続きができないって、不便すぎない?」

チャットですぐに連絡ができ、オンライン上での購入や決済など便利な世の中の今、企業が提供するサービスのデジタル化は避けては通れない道になりつつあります。なぜならそれは、“顧客の不便・不満を解決して喜んでもらう”という業務の目的そのものだからです。

実際に僕は、デジタル化が進んでいないサービスを通して不満を感じることが多々あります。とあるオンラインバンクで振込をしようとしたときのこと。エラー表示が出てきました。1ヵ月に1回くらい「パスワードを変えましょう」と連絡が来るのでその都度変えていたら、どうやら間違ってしまったそうです。

コールセンターに電話をすると「支店に印鑑をもって再発行の手続きにお越し下さい」と言われてしまいました。自分が悪いとはいえど、日中働いている中で9~15時の営業時間に向かうのは簡単ではありません。正直オンラインで済ませられないことに愕然としてしまいました。

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他にもこんなことがあります。奥さんと子どもと車に乗って信号待ちをしているとき、たまたま後ろから他の車にぶつけられて、バンパーが破損。とある保険会社に加入していたので、日曜日に電話をかけ「明日本社から電話があります」と言われて待っていると、なんと1日に“別の番号から7件”の電話がかかってきたのです。

担当が縦割りに決められているんですよね。もちろん、電話越しで7件全てに住所と生年月日を伝える羽目に。「なんでチャットじゃできないんだろう…」と感じましたし「あなたから伝えてはくれないのですか?」と聞くと「そういう決まりになっているのです」と言われてしまいました。その日は「保険に契約していて良かった」と思える日だと想像していたら、まさかの不満を感じる日となったのです。

このように顧客として体験すると「もっと快適にできるのでは」と思ってしまうサービスはたくさん存在します。未だに多くの業界がFAXを活用し、書類記入と印鑑捺印を要求し、数十分にも及ぶ電話対応をルールとしています。それらは顧客満足のためではなく、企業の都合でしかありません。“顧客の不便・不満を解決して喜んでもらう”という業務の目的を忘れているのでは、とすら感じてしまいます。

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便利な世の中に慣れている世代からしたら、時間と手間のかかるサービスを、今後新たに契約するでしょうか。時代に適合できなければ、たとえ大企業であっても、顧客は離れていくことは明白です。今後はさらにITリテラシーの高い人たちが増えていく時代。“顧客の不便・不満を解決して喜んでもらう”という業務の目的に立ち返り、サクサク快適に使えるサービスに変えていくことが、非常に求められています。


変われない、個人の不都合な真実

しかし、日頃の研修では「変わらなければいけないと分かっているものの、変えられない」という声をよく聞きます。そこには変えられない不都合な真実(本音)があるのです。

今の業務をそのまま続けていても、お給料はもらえる。もしも変革の旗振りをすれば、今以上に忙しくなってしまう。失敗に終われば昇進に傷がつく。変われない背景には、終身雇用モデルにおける働き手の本音が潜んでいます。

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だからこそ今、真の顧客価値を考え、改革を進めていくリーダーを、企業は、世の中は待っています。そもそもの目的に立ち返り、顧客の不便・不満を解決しようと思い立てば、実はできうることはたくさんある。そもそも不要な仕事をカットする。テクノロジーに代替する。そして、人だからこそ価値発揮できる関わりに労働時間を充てる。変革できることは大いにあるのです。

ただし、全員がリーダーとしてキャリアを歩むべきとは僕は思いません。覚えておいてほしいのは、「自分が言うだけではどうせ変わらない」と思うのではなく、少しの行動でも、一歩先の現実が変わるきっかけになるかもしれない、ということ。

以前ウェブ上で「厚労省改革若手チーム緊急提言」のPDF資料を読み、思わず応援したくなり、Facebookにて拡散したことがあります。すると、Facebookをみた財務省・経済産業省と仕事をしている知人が「読みました」と連絡をしてくれたのです。その時に私は、何か変えようとする声は小さくとも繋がっていくんだな、と思いました。

たとえ解決をする旗振り役にならないとしても、応援をするフォロワーの存在として、一歩踏み出しているリーダーの力にはなれる。

「変わらなければならない」と思いながらも、変えられない本音・ジレンマを抱えている人は、まず身の回りのできることから考えてみてほしいなと思います。

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▶︎働きごこち研究所についてはこちら
http://www.hatarakigokochi.jp/
▶︎藤野貴教の書籍 『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』は、おかげさまで中国・台湾・韓国で翻訳されました。
https://www.amazon.co.jp/2020年人工知能時代-僕たちの幸せな働き方-藤野-貴教/dp/4761272546

藤野貴教 Fujino Takanori
株式会社働きごこち研究所 代表取締役 ワークスタイルクリエイター

2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。「働くって楽しい!」と感じられる働きごこちのよい組織づくりの支援する傍、2015年より「テクノロジーの進化と人間の働き方の進化」をメイン研究領域としている。日本のビジネスパーソンのテクノロジーリテラシーを高め、人工知能時代のビジネスリーダーを育てることが志。グロービス経営大学院MBA取得。『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方(かんき出版)』を上梓。
執筆アシスタント : 水玉綾 Aya Mizutama
フリーランスの編集者・ライター

株式会社CRAZYにて人事担当として、2016年10月に採用広報を目的としたオウンドメディア「CRAZY MAGAZINE」を立ち上げ、2018年7月に独立。現在は外部広報として「CRAZY MAGAZINE」の編集長をする傍、DeNAの採用メディア「フルスイング」で企画編集や、「新R25」「未来を変えるプロジェクト」等のメディアにて働きかた・組織論を中心としたインタビュー・記事制作を担当。

2冊目の本書いていて、たまにやる気出すためのNote書きます。