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花街道~揺れる女心と散らない紫陽花【2023.07.3】

万本千草四季折々に咲く。折々の花が咲き、そして散る。『風姿花伝』の世阿弥の言葉である。そのことを実感するのは、昨年6月末に引っ越してから。

毎日通勤のため最寄り駅へ向かうとき、“花街道”を通るようになった。“花街道”とは私が勝手に付けた名前。川の暗渠の上につくられた緑道で、両側に花や木が植えられている。区画ごとに手入れの状況や、花壇の取り合わせも違う。

今までは葉しか見えなかったのに、時を得て咲く花がある。長い雌伏を経て、スポットライトを浴びる舞台俳優のように。

だが、退場に納得せず、舞台にしがみついている老女優のような花がある。7月に入って、急速に色を失いつつある紫陽花だ。本来はガクである飾り花は色褪せたまま散らずにとどまり、無残な姿をさらしている。

6月上旬の咲き始めは、雨上がりに初々しかった。やがて、衣装や結い上げた髪も重たげに誇らしく咲き誇っていたのに。

2023年6月11日撮影。雨上がりのガクアジサイ。


時の流れは無常だ。花の盛りは短くて、早くも次の季節へと歩を進めようとしている。枯れたまま枝にしがみついている紫陽花のさまは、人生の下り坂を迎えている私に多くのことを語りかけてくる。ざわつく女心を抱えながら、駅への道をきょうも急ぐ。







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